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常識を疑え!

パワハラはなぜなくならないのか?

香山リカ(医師)

 この3月30日、「職場いじめは違法」とするひとつの判決が東京地裁で出た。

 訴えを起こしたのは、新銀行東京の元行員の男性だ。男性は試用期間を経た後、自主退職を求められたが、それには応じなかったという。するとその後、計約5カ月にわたって、コーヒーマシンの管理や座席表の作成などの雑務を命じられた。

 男性は、企業の法務部門や経営コンサルタントの経験があり、判決は「機械的作業に専従するとは想定されておらず、銀行の裁量権を逸脱している」と指摘。もちろん「コーヒー係」も職場にとっては必要な業務かもしれないが、この場合は自主退職に応じなかったことへの実質的な制裁であり、違法と判断できるとして、新銀行東京に100万円の支払いを命じた。

 銀行側としては反論もあるようだが、裁判所が認める通りであったとしたら、これはパワーハラスメント、パワハラに相当するといえる。「えっ、パワハラって上司が部下に暴力を振るって言うことをきかせたり、仕事のできない部下に“バカ”などの暴言を浴びせたりする、というやつでしょ。屈辱的かもしれないけれど“コーヒー係でいいよ”と言うのは、パワハラとは違うんじゃないの」と考える人もいるかもしれない。

 しかし、先ごろ厚生労働省が発表した「パワハラ」に関する提言でも、「仕事を与えない」「経歴や能力にそぐわない簡単な仕事しかやらせない」というのもパワハラと認められているのである。

 その発表とは、厚労省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」がまとめた、「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」だ。実は私も、この円卓会議のメンバーのひとりであった。一般的にこの手の会議や審議会では、「まず問題ありき」と「そのことは誰もが問題と考えている」というのが前提で、「それをどう解決すればよいか」といった対策を具体的に検討していく。しかし、今回は少々、違った。まず「パワハラを知っていますか?」とこの問題に関心を持ってもらい、「ウチの職場にもあるかも」と気づいてもらうことから始めなければならなかったからだ。

 今回の円卓会議では、「パワハラにはいろいろな種類があり、“上司から部下への暴力、暴言”だけではない」ということが強調された。「同僚どうし」もあれば、「部下から上司」というのもあり、“加害者”が単数ではなく部署ぐるみ、組織ぐるみということもあるのだ。

 また、代表的なパワハラには次の6つのパターンがあることが明示された。
(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
 これで考えれば、冒頭に紹介した「コーヒー係」は(5)に相当するだろう。

 パワハラは、「ウチにはあるわけない」と思っている職場ほど、起きやすい。「自覚がむずかしい」ことこそが、パワハラがいつまでたってもなくならないことの最大の原因だ。「ウチにだってある」という発想からでないと、対策も予防も進まない。それがパワハラなのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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