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常識を疑え!

女はなぜ脱原発なのか?

香山リカ(医師)

 政府の提案する「エネルギー政策・3つのシナリオ」に関する意見聴取会が、各地で行われた。

 圧巻は福島市で、30人の登壇者の中の28人が、2030年の原発依存度の選択肢のうち「0%」を主張した。また、大飯原発再稼働に踏み切った政府への不信感や、聴取会そのものが「アリバイ作り」になっている懸念なども口ぐちに表明されたという。私はテレビのニュースなどで見ただけなのだが、登壇して「30年後ではなく即、廃炉に」と訴えた人、会場にいた細野豪志環境大臣に詰め寄った人など、とくに女性の真剣さが目についた。

 たしかに、反原発、脱原発を熱心に訴える人には女性が多い。先日、50代から60代の男女10人ほどで会食をする機会があったのだが、話がエネルギー政策に及び、ひとりの「この中で脱原発、反原発の人は誰?」という呼びかけに手を上げたのは、私を含めて全員が女性だった。

 一方で、男性たちは口ぐちにこう言った。「キミたち、感情的に反対、反対と言ったって、それが日本の産業にどれくらいダメージを与えるか、わかってるの? 数字を出してくださいよ」「中国を始めとしてアジアは原発建設ラッシュなんだ。日本だけ遅れるわけにはいかないよ」「安全保障の見地からも、原発を手放すのは非常にまずい」。なんだか国を背負って立つ人のような口ぶりだ。

 どうして、脱原発は女性に多いのか。「母親として子育てにかかわる立場だから」という意見もあるが、先の会食で「はい」と手を上げた女性は全員、子どもを持たない人だった。私にも子どもはおらず、「わが子の未来のためにも脱原発で安全な社会を」と思っているわけではない。

 もちろん、女性にも原発維持派はいるし、男性でも熱心に脱原発を唱える人はいる。ただ全体でながめると、先の例のように男性は「怖いから」「不安だから」と自らの感情で行動するのをよしとせず、あくまで「日本経済は」「世界の安全保障のバランスは」と大局的な視点に立とうとする。福島第一原発の事故の後にはパニック状態になって水を買い占めたような男性さえ、今になると「火力のみにすると電気代はいくらになって、そうなると日本から工場が出て行ってしまう」などと、国を憂える“国士”のように振る舞っている。

 では、男性が理性的、社会的なのかと言うとそれは違うのは、個人の出世や利益のために何でもする自己中心的な人が多いことを見ても明らかだ。

 ただ、彼らは自分が「数字以外の何か」で動くということを公にするのが恥だ、と思い込んでいるのだろう。しかし、そうすればするほど、そこには「本当の気持ちは逆。危険だと感じて怖くてたまらない」というのを無理に隠そうとする、「反動形成」という心の防衛メカニズムが働いているのでは、と思いたくなってしまう。

 さて、何十億といったやたらと大きい規模の金額を口にしながら原発維持を主張する男性と、「とにかく、人には止められないものがあるだけで恐ろしい。少しくらい損をしてもいいから早く止めて」と言う女性、どちらが正しい態度なのか。ここで答えを出すことはできないが、避難を続ける福島の人たちもいる意見聴取会で、「原発を止めることで日本経済の損失はいくらだと思いますか?」と得意の“大きな数字”をかざして演説ができる人がいなかったことから見ても、答えは明らかなのではないだろうか。「オンナのなんとか」という、女を特別視する言い方は日ごろ好まない私であるが、今回だけは“オンナの直観”を信じたい。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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