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常識を疑え!

なぜネコにだけ優しい人がいるのか?

香山リカ(医師)

 女性誌から「なぜかネコにだけ優しい人」という特集を組むので、と依頼があり、インタビューにこたえた。その記事の一部はネットにも公開され、ネコ好きの人、そうでもない人たちのあいだで話題を呼んだようだ。

 私自身、自宅には6匹のネコと1匹のイヌがおり、動物の前では仕事の場面とはかなり違う甘い顔を見せているようだ。いつも飼い主に親愛の情を示し、声がけには尻尾を振って喜び、忠実に指示に従うイヌとは違い、ネコは一見、飼い主にも無関心で名前を呼んでも無表情。行動もあくまで自分本位、人間の都合と関係なく食べたり寝たりしている。

 一般的にはネコの魅力はそのマイペースぶりにあると言われたり、ふだんはクールなのに突然、甘えてくるギャップがよいとされたりしている。もちろん、それも間違いではないが、ネコの人気の理由はもうひとつ、あると思う。

 それはとくに現代の孤独な人間たちにとって、ネコは「心の鏡」の役割を果たしている、ということだ。ネコはその感情がわかりにくいだけに、人間が勝手に解釈することもできる。たとえば、こちらが落ち込んでいるときは、ネコを見ながら「なんだかネコも寂しげな顔つきだ。私の気持ちをわかって、いっしょに悲しんでくれているんだ」と思い込む。逆に仕事で評価されてうれしいときなどには、「ほら、ネコがいつもと違ってはしゃいでいる。私がほめられたことを喜んでくれている」などと言うこともできる。

 これがイヌとなると、感情表現がかなりはっきりしているので、自分の都合で「いまは喜んでいる」「今度は怒ってくれている」などと思い込もうとしてもムリがある場合が多い。私自身、職場でイヤなことがあったときに「ねえ、ひどい上司だよね…。あなたもそう思うでしょ」とイヌに話しかけたら、おやつをもらえるとカン違いしたのか、うれしそうに飛び跳ねて「ワン」と言われ、「やっぱりわかってないのか」とがっかりしたこともある。これがネコとなるとそこまでのリアクションもないので、「ネコはわかってくれているんだ」と自在に解釈しやすい。

 このように、ネコを心の鏡にすることで、私たちは「誰かに共感してもらえた」と思い、とりあえずやり場のない感情の行き先が見つかったような気になれる。しかも、言葉を話せる人間とは違い、ネコは「でも、あなたにも悪い点がある」「今度はこうすべきじゃないか」などと批判、助言をしないところがなお都合がよい。つまりネコは、「批判なき共感」をしてくれる唯一の相手ということになるのだ。

 しかし、その「批判なき共感」にも問題がないわけではない。いったんその心地良さを味わってしまうと、少しでも人間の友人に意見をされたり問題を指摘されたりするだけで、ひどく傷つけられたような気持ちになってしまう。そして、「やっぱりもう人に話すのはやめよう」と人間との接触を避け、心を閉ざそうとする人さえいる。それが冒頭の女性誌が企画した「なぜかネコにだけ優しい人」ということだ。

 もちろん、ネコはかわいいし、飼うことにより心がなぐさめられると感じる場面は少なくない。とはいえ、「ネコだけが自分の気持ちを全部わかってくれる」というのは、やっぱり人間の勝手な幻想といえる。ネコに癒やされながらも、人とのコミュニケーションも避けることなく、たとえ批判的なことを言われたり欠点を指摘されたりしても、傷つきすぎることなく前向きに受けとめて暮らしたいものだ。これは、つい「ネコがいちばん。ネコがいれば幸せ」と思いがちな私自身への戒めでもあることをつけ加えておこう。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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