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常識を疑え!

政治家はなぜ失言・暴言を繰り返すのか?

香山リカ(医師)

 橋下徹大阪市長が「戦争に慰安婦は必要だった」と語り、米軍の司令官に「風俗業を活用しては」と勧めた問題は、6月18日、サンフランシスコ市議会が抗議の決議文を全会一致で採択するなど、いまだ終息しそうにない。

 しかし他にも、高市早苗自由民主党政調会長が「原発事故で死者が出ている状況ではない」と発言したり、復興庁の参事官がツイッターで政治家や被災地の議会を名指しで揶揄(やゆ)したりと、社会的に重要な立場にある人たちの失言・暴言が相次いでいる。

 この失言・暴言には、いくつかの種類があると考えられる。
 まずは、自分が持っている能力や権力を万能だととらえ、「何を言っても許されるはず」と思い込む「自己愛型」だ。ときどき石原慎太郎氏が横柄な口調で繰り出す暴言などがこれに相当すると思われる。人格的なタイプとしては対極にあると見られがちだが、鳩山由紀夫氏が口走る現実離れした発言も、自分の能力を一度も疑ったことがないことから生まれる万能感に基づくものなのではないか。こういった人たちの失言・暴言は、周囲からは「そういうキャラだから」と許されることも多いが、発言の内容によっては著しい人権侵害や国益の損失につながる場合もある。

 次に、これは権力を手にしたばかりの人に見られがちだが、つい舞い上がってしまい、口をすべらせる「脱抑制型」。民主党政権時代、松本龍復興担当大臣(当時)が宮城県の知事に「いいか、わかったか?」などと命令口調で指示し、世間の大顰蹙(ひんしゅく)を買ったが、これも大臣という地位について自分を見失ってしまった結果と考えられる。

 そして、もっとも問題なのが、失言というより深層心理に潜んでいた、本人も自覚のない“本音”がポロッと顔を出す「失錯行為型」。このパターンでも、本人もそんなことを言ったらどうなるか十分わかっていながらも、なぜか最悪のタイミングでそれが口から出てきてしまう。さらにこの「失錯行為型」はふたつに分けられ、“本音”がそのまま出るタイプと、“本音”の奥にさらにもっと深刻な個人的問題が隠れているタイプとがある。つまり、たとえば「女性なんて性の道具ですよ」と発言してしまった政治家がいたとして、それが常日ごろ思っている“本音”の場合と、幼い頃、母に愛されなかったといった個人的なトラウマがあって、それを自分で見ないようにするために女性蔑視という価値観を身につけ、それがポロッと出てきてしまう場合とがあると考えられる。

 いずれにしても“深層心理の本音”が出る失錯行為は、ネットの普及とともにより出現しやすくなっていると言える。現実社会であれば、ある言葉を口にした瞬間に周囲の人たちの表情変化などがわかるので、そこから発言を軌道修正することができる。たとえば、「風俗業は…」と言ったときにまわりの女性が顔をしかめたら、「なくなることが望ましい」という言葉で受けることも可能だろう。それがツイッターなどネット上の発言では、最後まで書いて投稿するまで受け手の反応はわからない。そこでつい、深層心理が露出狂的に暴走し、ふだんは自分でもうまく隠しているはずの本音、さらにその奥のトラウマに由来した本音までがあふれるように出てきてしまうのである。

 とはいえ、その失言・暴言がいくらトラウマに結びついたものだったとしても、やはり政治家や官僚といった立場にある人には、言ってよいこととそうでないことがあるはずだ。もし、自分の力でそれを止めることができないというのであれば、「まずは政治や行政の仕事をする前に、カウンセリングを受けて問題を解決してはどうですか」と言いたくなるが、これも「政治家を病人呼ばわりした! 暴言だ!」と言われてしまうだろうか。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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