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連載

新教科「情報」がもたらす激震 〜2025年から共通テストに導入か?

第25回

大内裕和(武蔵大学教授)

 毎年恒例の受験シーズンがやってきました。2021年12月7日、大学入試センターは22年1月に実施される「大学入学共通テスト(共通テスト)」の確定出願者数は53万367人だったと発表しました。

 この共通テストで、3年後に新たな教科が導入されようとしています。大学入試センターは先般、プログラミングを含む「情報」を新教科として25年の共通テストから出題すると発表しました。文部科学省からも「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」が出され、試験時間を60分とするとの「補遺」も通知されました。

 25年の共通テストにおける「情報」教科の扱いは現在、国立大学協会で議論が行われています。従来の5教科7科目の原則を6教科8科目とする案には、賛否両論が出されています。同協会では21年11月中に扱いを決定する予定でしたが、22年1月まで先送りとなりました。

 皆さんは、この「情報」教科の導入についてどう思われますか?

「情報化社会が到来しているのだから導入は自然の流れだ」「プログラミングやAIを使いこなせる人材を育成するためにも情報科を学ぶことは重要だ」などの理由で、賛成の人も少なくないかも知れません。しかし、私には今回の新教科導入に関して、いくつかの疑問があります。

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 まず、受験生の負担が増加する弊害が懸念される点です。国立大学協会では、学力低下対策の一環として、国立大学志願者に対し04年度入試からセンター試験の5教科7科目受験を原則とする提言をしました。これを受け、09年度入試では96%の国立大学が5教科7科目以上を課すようになりました。河合塾の調査によれば、21年度入試でも国立大学の88%が7科目以上を課しています。3教科が基本である私立大学の一般選抜と比べて、教科・科目がとても多くなっています。

 しかも国立や公立大学の入試では、共通テストの後に記述式問題や小論文などからなる「二次試験」がひかえています。つまり受験生は、多くの教科・科目にわたる共通テストと、より論理的思考力や表現力を試される二次試験の両方の対策をしなければならないのです。

 こうした中、さらに新しい教科を加えることは、どんな意味を持つでしょうか? 現在の5教科7科目でもその学習範囲は膨大で、受験生はかなりの負担を強いられています。そのため相当の負担増が見込まれます。「試験科目が増えれば、そのぶん勉強するからいいんじゃないの?」などと簡単に考えないでください。学習内容を過密にしてしまうと、それは生徒から着実な学習を行う余裕を奪い、表面的な理解や機械的な暗記を促進する弊害が生じます。

 それに共通テストの教科数が増えることは、受験生の一次試験対策への傾きを強め、二次試験に向けた学習を妨げることにつながりかねません。国公立大学は、客観的な選択問題と記述式問題や小論文試験とを組み合わせることでバランスの取れた学力を持つ学生を選抜することを目指してきましたが、その学力バランスを崩す危険性があると思います。

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 次に疑問なのは、高校現場での教育体制の不備です。授業で情報科を教える専任教員が全国的に不足しています。15年の文部科学省の調査では、全国約4900校の公立・私立高校における情報科の教員数は5732人とされていました。しかし、このうち専任教員は1170人で、全体の約2割に過ぎません。あとの8割は他教科も兼任で教えていたり、他教科の免許しかない教員が「免許外教科担任」として特例的に教えていたりするケースです。

 情報科の専任教員が不足していることに加えて、地域格差があることも大きな問題です。電気通信大学の中山泰一教授らが情報処理学会の活動で調査研究した結果によると、情報科の専任教員の割合は東京、埼玉、沖縄の3都県では8割以上ですが、26県では1割未満となっています。これは極めて大きな格差といえるでしょう。

 なぜこんなことになったのかといえば、そこには情報科導入の経緯が関わっています。高度情報通信社会の進展に向けた有識者会議「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」では、1998年8月の最終報告において高校での普通教科「情報」の設置を提言しました。これを受けて、2003年度の学習指導要領から高校に情報科が新設されました。

 中学校と高校の教員免許は教科ごとに分かれていますが、「情報」は新教科でしたので当初は免許をもつ教員がいませんでした。そこで現職教員等に向けた講習会を開催し、にわかに教員を養成することにしたのです。具体的には数学、理科、工業、商業、農業、家庭、水産、看護の8教科の教員免許があれば、15日(90時間)の講習を終了させると「情報」教科の免許が取得できました。

 この講習会は3年間実施され、中山教授らの調査(*によると全国で約1万4000人の情報科教員が誕生したそうです。さらに先ほどの「免許外教科担任」や、学校が経費や人材の事情で普通免許をもつ教員を採用できない場合に期間や制限付きで与えられる「臨時免許」といった特例措置も実施され、そちらは増加の一途をたどってきました(文部科学省「高等学校情報科担当教員に関する現状について」)。しかし専任教員となると、不足している状況が今日も続いています。

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 では情報科の専任教員はなぜ増えなかったのでしょうか?

 その理由として、採用側においては「情報」教科の単位数が2単位(週2コマ)と少なかったことがあったようです。特に小規模校が多い地域では教員定数も減少しており、配置できる教員の数に限りがある中で、単位数の少ない教科のため専任教員を採用することは困難です。学校側としては「情報」教科だけでなく、他教科の授業もしてもらわなければならない事情があり、情報科の専任教員の募集が少なくなりがちでした。一方、専任教員を育成するところでも問題があり、大学で「情報」教科を学べる学部は民間企業との結びつきが強いので、教員を志望する者が十分には増えなかったこともあります。

 こうした事情から全体として情報科の専任教員は少なく、地域・学校間で教育格差も生まれ、その状況は現在も続いています。この状況下で共通テストに「情報」教科を導入することは、居住地域や出身校による有利不利を生み出す危険性があります。公平性・公正性が強く求められる共通テストでは、この点はとりわけ大きな問題となるでしょう。

 共通テストへの「情報」教科の導入を推進する人々の主張を聞くと、彼らの多くは情報科の専任教員の不足や教育環境の不備を心得ているようです。そうした事情を知ったうえで、共通テストに新教科として導入することで世の中に情報科の専任教員を増やさざるを得ない状況をつくり、情報科教育の充実をはかりたいと考えているのです。

 しかし、これは本末転倒でしょう。現時点での共通テストへの導入は、先述したように受験生に不公平な試験を強いることになり得ます。共通テストに導入することで、結果として高校の情報教育が充実したとしても、そのために現在の受験生が犠牲となることは許されないと思います。ここには、「大学入試によって高校教育を変える」という近年の教育政策の弊害がよく表れています。全国すべての学校で、同レベルの教育が実施されていることが、共通テストに新教科を導入する前提条件であるべきです。

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 また、これまでの「情報」教科の各科目の変化も、行政の狙いと学校現場のズレを示しています。

 初めて高校の新教科として「情報」が登場した時、情報活用の実践力を養う「情報A」、情報の科学的理解を深める「情報B」、情報社会に参画する態度を養う「情報C」の3科目が選択必履修科目として設定されました。この中から 1 科目を選択するのですが、生徒の自由意思ではなく学校側が科目指定を行うことが一般的でした。結果は圧倒的に多くの高校が「情報A」を選択し、パソコンなど情報機器の操作が教えられることとなりました。それは情報科の専任教員や情報についての専門知識を持つ教員が不足する中で、「情報B」と「情報C」は教えにくく、「情報A」が最も教えやすい科目だったからです。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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