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2024年、高卒就職者の求人倍率が「過去最高」に 〜このニュースをあなたはどう考える?

第49回

大内裕和(武蔵大学教授)

 2023年9月16日から、来年春に就職を希望する高校生の採用試験が全国一斉に始まりました。マスコミ報道によれば、人手不足などを背景に7月時点での求人倍率は全国で3.52倍と過去最高で、1986〜91年頃のバブル景気時代を超える「売り手市場」となっているそうです。都道府県別でみると最も高かったのが東京の10.99倍で、次いで大阪の6.94倍、広島の4.31倍となっていました(NHK NEWS WEB「高校生の求人倍率が過去最高に 人手不足の企業増加など要因か」2023年9月13日)。

 高卒者の求人倍率も、03年は0.50~1.21倍、11年は0.67~1.24倍と2000年や2010年前後には低迷していましたが(厚生労働省「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」調べ)、昨今は大きく上昇しています。24年の高卒求人倍率3.52倍は、同年の大卒求人倍率1.71倍をも上回っていますから(リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」調べ)、「高卒の求人がこれだけ多いのなら、無理して大学や専門学校へ進学しなくてもいいんじゃない?」と思う人もいるかも知れません。

 しかし、今回の高卒求人倍率「過去最高」のニュースを手放しで受け入れてよいのでしょうか? 私は、今の状況は過去のデータと照らし合わせて、冷静に読み取ることが大切だと思います。

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 高卒者の求人倍率は1985年に統計を取り始めて以降、過去の最高倍率は92年の3.34倍でした。数値的には今回の倍率とさほど大きな違いはありません。しかし高卒の求人数と求職者数は、当時とは全く違っています。92年3月の高卒者の求人数は167万3331人、同求職者数は50万568人。対して2023年3月卒は求人数44万4187人、求職者数12万6069人です(厚生労働省「職業安定業務統計」調べ)。今は求人・求職者数とも大きく減っていますが、比率でみると求職者数の減少のほうが勝っています。つまり高卒者求人倍率が「最高」を記録したのは、求人数の増加というよりは求職者数の減少によるものだったと思われます。

 また求職者数の減少と聞いて、「少子化で子どもの数が減ったから」と考える人も多いのではないでしょうか。確かに18歳人口は減少しています。1992年に約205万人だったのに対し、2023年は約112万人と半分近くまで減りました。一方で、求職者数は4分の1程度にまで減っています。このことから求職者の減少は、少子化による影響だけではないと言えるでしょう。

 では何が大きく変化したのかといえば、高卒者に占める就職組の割合です。1992年の高卒者のうち、就職した人の割合は33.1%に達していました。高校を卒業すると3人に1人は就職していたのです。しかし、その割合は年々低下して2022年には14.7%、高卒で就職する人はおおよそ7人に1人程度です。ここに少子化が加わり、求職者の減少を加速させたことが分かります。

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 どうして高卒で就職する人が少なくなったのか? 1990年代以降、経済のグローバル化と政府の規制緩和政策によって、雇用の不安定化が急速に進行しました。それまで多くの高卒者が就職先としていた製造業各社は、工場等の海外移転によって国内雇用が大きく減少しました。一方、拡大するサービス産業においては非正規雇用の増加が進み、全体の労働者の中で非正規雇用の占める割合は、89年の約20%から2019年には約40%へと倍増しました(総務省統計局「労働力調査」調べ)。

 この労働力全体の非正規化の影響を最も受けたのが高卒就職者でした。どの統計調査を見ても、大卒と比較して高卒者の非正規雇用比率は高くなっています。日本における非正規雇用は、正規雇用(正社員)と比較して賃金はとても安く、社会保険への加入率が低いなど福利厚生が満足でなく、キャリアアップのための訓練を受けることも難しい、といった欠点があります。いわゆる「非正規差別」とも呼べる状況がまかり通っているのです。

 特に高卒と大学・大学院卒の賃金差は、近年、拡大傾向にあります。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、1999年の高卒に対する大卒以上の平均賃金は男性1.27倍、女性1.32倍でした。それが2015年には男性1.40倍、女性1.39倍となり、男女ともに賃金格差が拡大しています。大卒以上の専門知識や情報処理、判断能力を必要とする仕事が増えていること、高卒の雇用状況が悪化していることなどがその原因として考えられます。

「大学は増えすぎてレベルが下がったから行ってもあまり意味がない」「レベルの低い大学へ行くぐらいなら高卒で働いたほうがマシ」などの意見を聞くことがしばしばありますが、高卒と大卒以上との賃金格差が拡大しているのですから、その意見は的を外していることが分かります。こうした背景からも、高卒就職者が減少するのは当然です。

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 今回の高卒者求人倍率「過去最高」のニュースから、「高卒の就職者に需要が集まっているのなら、今後は待遇改善も進むだろう」との見方もできます。しかし先述したように、1990年代以降の雇用状況の悪化によって高卒就職者が急激に減少した結果、高卒求人倍率の上昇がもたらされたとすれば、その裏には大卒者よりも「安い賃金で使える」「リストラしやすい」など、雇用側にとって「便利な労働力」として求められている可能性もあります。したがって、待遇改善につながると安易に結論づけることはできないでしょう。

 誤解していただきたくないのですが、私は「すべての人が大学に進学すべき」とか「何が何でも大学に進学することが望ましい」と考えているのではありません。大学や専門学校に進学することを望まず、高卒で働きたいと考えている人に対し、その希望や熱意を尊重するのは当然です。それに加えて、高卒で就職する若者の待遇改善は、社会として取り組むべき重要な課題であると考えています。

 私が心配しているのは、高卒者求人倍率「過去最高」というニュースによって、この30年間深刻化し続けてきた高卒者の雇用実態や、大学・専門学校への進学を望んでいるにもかかわらず就職せざるをえない高校生もいる、という現実が隠されてしまう危険性です。

 とりわけ後者については、一刻も早い改善が望まれます。18歳人口の減少によって、大学の合格率は上昇を続けています。にもかかわらず大学や専門学校への進学をあきらめるというのは、何よりも経済的理由である可能性が大です。大学や専門学校の学費を公的教育予算の増額によって引き下げ、給付型奨学金を拡充することによって、経済的に豊かでない世帯出身の高校生が進学しやすい条件を整えるべきです。

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 高卒就職者が就職後に大学・専門学校へ進みたくなった場合に、進学しやすくする体制を整えることも重要です。在学中は学ぶことにあまり意欲がなかったけれど、卒業して社会へ出ると「もっと学んでおけばよかった」という気持ちが湧くのはよくあることです。職場や社会での経験から、問題意識や学ぶことへの意欲を持つ人々が大勢います。そうした若者を積極的に受け入れるのは、大学・専門学校の教育にとっても望ましいことだと思われます。学費を引き下げ、給付型奨学金を利用できる条件枠を外して、年齢に関係なく大学・専門学校で学びやすくすべきです。高齢化社会に向けた労働市場改革とセットで進められれば、日本社会を強固に縛っている「年齢主義」の解体にもつながるでしょう。

 それから、高卒就職者に対するサポートの充実です。大卒以上の就職者との雇用格差を埋めてゆくには、高校在学中から就職希望者に「ワークルール教育」(働くうえでの労使間の法的な決まりごと、規範、権利、義務などを全般的に学ぶこと)の充実をはかる必要があるでしょう。というのも高卒就職者は年齢が若く、社会経験も少ないことから労使関係で弱い立場に置かれることが多々あります。雇用者から提示された条件やルールに「少しおかしいな?」と思っても従ってしまう危険性は、大卒以上の就職者よりも高いと思われます。

 現在、高校でのワークルール教育は残念ながら必修化されていませんが、労働法の専門家、弁護士、労働基準監督署などの協力を得て「社会で働くために知っておくべきこと」を教育することが、高卒就職者を守ることにつながります。将来的には、ぜひ必修化を目指してほしいところです。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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