若者・現役世代優遇か?高齢者優遇か? ~「世代間対立」を煽る政策議論が危ない
大内裕和(武蔵大学教授)
このように闇バイトを通じて犯行に関わるのは若者が多く、主に高齢者に狙いを定めた強盗や詐欺事件が起きていることが分かります。闇バイトについてはその裏にある複雑な社会背景を含め、慎重な考察を積み重ねる必要があり、短絡的な若者批判は避けなければいけません。しかしそのことを踏まえた上で、犯行に及んだ若者たちの乱暴で残酷な行為を見ると、そこには高齢者に対する「憎悪」の感情のようなものが顕れているとも感じます。
私が勤務する大学にも、「高齢者は自分たちより恵まれている」という感覚をもった学生は多数存在しています。奨学金などで学生のうちから多額の借金を抱えていたり、複雑な家庭環境に苦しんでいたりする若者が、一見裕福そうに見える高齢者にマイナスの感情をもつことは十分にあり得るでしょう。マスコミや有識者によって世代間対立が煽られることで、高齢者=裕福のイメージが若者の間に浸透し、不確かな思い込みのもとで闇バイトに吸い寄せられている危険性もあると思います。
そして若者・現役世代vs高齢者の世代間対立を煽る議論が、最も覆い隠しているのは、日本で急速に拡大している貧富の格差です。野村総合研究所の推計によれば、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から不動産購入に伴う借入などの負債を差し引いた「純金融資産保有額」が5億円以上の「超富裕層」は05~21年にかけて5.2万世帯→9.0万世帯、1億円以上5億円未満の「富裕層」は81.3万世帯→139.5万世帯へと増加しています。
若者の貧困が大きな社会問題となり、また高齢者の貧困も深刻化しています。その一方で、超富裕層や富裕層は増加を続けています。「世代間対立」を煽る議論は、こうした貧富の格差を覆い隠す機能を果たしています。「格差と貧困」が深刻化する日本社会で強く求められるのは、若者・現役世代を優遇するか、高齢者を 優遇するかの泥仕合ではないはずです。まずは社会構造を見直して、貧富の格差を是正する議論から進めるべきだろうと私は考えます。