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連載

若者はなぜ「スキマバイト」へ走るのか? ~ブラックバイト問題に照らして

第69回

大内裕和(武蔵大学教授)

 学生生活との両立がしやすいという点では、スキマバイトはブラックバイト以前のアルバイトと類似しています。とはいえ、学生が置かれている経済状況が、当時とは全く異なります。1980年代~90年代半ばにかけては、学生がアルバイトをする主たる目的は、趣味、サークル、旅行など自身が「自由に使えるお金」を稼ぐことでした。が、2010年代に入りブラックバイトが広がっていった時期には、その目的が通学・就活の交通費、通信費、教科書代、学費など「学生生活を続けるのに必要なお金」を得ることへと変化しています。

 昔のように自由に使えるお金を稼ぐのが目的なら、スキマバイトだけでも比較的容易に賄うことができるでしょう。単発仕事が途絶えて収入が減っても少しの間、小遣いを我慢すればすむからです。

 しかし、学生生活を続けるのに必要なお金となれば、常に一定以上の収入を保つ必要があります。スキマバイトのような働き方は安定的に稼ぐことには向きませんから、学生からの聞き取りでもスキマバイトだけに頼って生活しているという人は少なく、多くは日々のアルバイトに加えて、空き時間にスキマバイトをしていることが分かりました。これではスキマバイトの拡大によって、ブラックバイトを減らすことにはならないでしょう。

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 スキマバイトを数多く登録することで、ブラックバイトから抜けられる学生もいるのでは? という意見もあるかも知れません。しかし、スキマバイト以外の稼ぎ口を持たずに「学生生活を続けるのに必要なお金」を賄うためには、相当多くの単発仕事をかけ持ちしなければならなくなります。確かに研修を受けたり、濃密な人間関係を構築したりする必要はありませんが、それはそれで別の意味での大変さがあるでしょう。スキマバイトを多数かけ持ちすることで、仕事先はもちろん学業との両立が困難になる危険性もあります。

 スキマバイトは、学生生活において貴重な「時間」を奪います。学生には授業やゼミ、サークル活動などにあてる時間が必要なのは当然ですが、それに勝るとも劣らないくらい重要なのは、授業と授業の合間や休み時間、授業終了後、夏休み・春休みなどの「スキマ」時間だと思います。自分の学生時代を振り返ると、興味のあるテーマについて友人と長い時間話し合ったり、自分の将来のことをゆっくり考えたりした「スキマ」時間がいかに大切であったか、今でもあらためて痛感することが多いです。スキマバイトはこうした貴重な時間を学生から奪う危険性が高く、「学生であることを尊重しない」という点では、ブラックバイトと同様の問題性があるように感じました。

「全進研夏のセミナー2025」は、スキマバイトの実態を明らかにすることに加えて、スキマバイトが若者や学生になぜ広く受け入れられているのかを考える貴重な場となりました。スキマバイトの危険性を伝えるだけでは十分ではありません。若者や学生に広く受け入れられている理由をより深く考察した上で、社会構造自体を問題提起していくことが大切ではないでしょうか。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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