この国の、そして遠い国の生きづらさ 〜宗教・ケア・障害をめぐる漫画より〜
雨宮処凛(作家、活動家)
そんな有紗はやはり障害のことを隠して配送センターのバイトを始める。障害がバレないように頑張る有紗だが、午前、午後を示す「AM/PM」がわからなかったりと前途多難だ。そんなバイト先で優しく仕事を教えてくれるのが社員の岡村さん、35歳。有紗は彼に恋をしてコンパニオンのバイトをやめる。岡村さんも有紗を好きだと言ってくれて、2人は付き合い始める。それは宝物のように愛おしい日々で、岡村さんがどれほど有紗を愛しているかも伝わってくる。が、有紗の心にはずっとひっかかり続けていることがある。
それは、「私に障害があるって言ったら 好きじゃなくなる?」 ということだ。
言うべきか、言わざるべきか。隠すべきか、それとも正直に話すべきか。悩みに悩むが、ふとした拍子に有紗は自分から「私 知的障害があるんです」と告白してしまう。慌てて「あっても軽度で」「手帳もB2(著者注 : 障害の程度が最も軽度の等級)なんですよ」「支援学校も一番上のクラスだったし」 と言うものの、やはり動揺する岡村さん。
「彼女が障害あるの イヤですか?」という言葉に、岡村さんは「有紗ちゃんは有紗ちゃんだから 関係ないよ」と言ってくれる。だが、2人の関係は少しずつ、変わっていく。
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そこから先はぜひ読んでほしいのだが、有紗の抱える劣等感や自信のなさ、必要とされると断れないところなどは、若く、それゆえ何もない時期の自分にも思い当たる節がありすぎて激しく共感し、同時にあの頃の痛みも蘇ったのだった。
著者は上巻のあとがきで、〈「見た目では障害があるとわからない」故の苦しみがある〉と書いている。
そのことを、これまでは想像するしかできなかった。けれど、有紗という女の子を通して、その解像度はぐっと高くなった。
同時に思ったのは、障害に限らず、おそらく誰もが「好きな人にはどうしても言いづらいこと」の1個や2個はあるということだ。
それが引かれそうな過去のこともあれば、家族や親戚関係の黒歴史ということもあるだろう。また、国籍などの問題が関わっていることもあるかもしれない。見た目ではわからない故の苦しみを、きっと誰もが抱えている。だからこそ、『初恋、ざらり』は多くの人の心に響くのだ。
さて、不穏な22年だったけれど、漫画は非常に「豊作」だったことは最後に書いておきたい。
あと少しで23年だ。来年こそ、戦争もなく、コロナも収束し、「日常」が戻りますように。そう切に願っている。