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「なぜ産まないのか」に対する個人的な回答 ~フリーランスの現場から

雨宮処凛(作家、活動家)

 例えばある編集者に依頼された仕事は、某雑誌での映画批評執筆で、そのための試写会に行くように言われた。試写会の日は、人生で初めてくらいに友人と旅行に行く日だったけれど、ありがたい話なので旅行は中止に。しかし、待てど暮らせど連絡が来るはずの某雑誌の人からの音沙汰はない。仕事を振ってくれた編集者に問い合わせると絶句し、謝ってくれたが、どうやらその雑誌は、私などの無名の書き手には書かせたくないと思ったらしく、連絡もないまま他の人に仕事を振っていたようだった。結局、私は楽しみにしていた旅行を中止しただけだった。悔しかったけれど、そんなことはいくらでもあった。軽く扱われれば扱われるほど、「この仕事をしながら子を産み育てる」ことは夢物語でしかなくなった。そんなことが許されるのは超一流の売れっ子だけなのだ。そう思った。

 もうひとつ、2000年にフリーランスの物書きになった私にとって、「仕事をしながら子育てする」女性のモデルがなかったということも「子産み・子育て」にリアリティを感じられなかった要因のひとつだ。

 さて、そんなことを考えていた頃、あるニュースに衝撃を受けた。それは「出産したら奨学金減免」という報道だ。

 自民党の「教育・人材力強化調査会」は、学生時代に奨学金を借りた人が子どもを持ちやすくするため、「子育て時期の経済的負担を増加させない制度設計」を求める提言を23年3月10日、まとめたのだという。その過程で、出産した人には奨学金返済を減免するという議論があった。

 また、3月13日には自民党少子化対策調査会長の衛藤晟一(えとうせいいち)氏が、子ども政策に関する党の会合で、奨学金返済について「地方に帰って結婚したら減免。子どもを産んだらさらに減免」と発言。

 日本学生支援機構によると、なんらかの奨学金を受けている大学生は49.6%と2人に1人。労働者福祉中央協議会の調査によると、奨学金の返済が結婚や出産、子育てなどに影響を与えていると回答した人は約3割にのぼるという。確かに、自分が400万円借りていて、相手も同額の奨学金を借りているとなると、2人で800万円。結婚に二の足を踏むには十分な額だ。最近も、あるデモで「手取り19万円」という女性が、その中から奨学金1万7000円を返していると話していた。これが何十年も続くわけである。

 それが子どもを産んだら減免なんて、いい政策ではないかと言う人もいるだろう。しかし、結婚や出産というごくごくプライベートなことと「奨学金減免」が結びつくことに、私はどうしても抵抗を感じてしまう。これでは結婚しない・できない、出産しない・できない人がペナルティを受けるようなものだと思うからだ。しかも、男女問わず、不妊の人もいる。LGBTの人もいる。そういうことを考えただけで、あまりにもデリカシーがないのではと思わざるを得ない。

 一方で、子どもがいたら幸せなのかと言えば「子育て罰」なんて言葉があるように、こちらも過酷な道である。「保育園落ちた」問題に始まり、学費の負担も重く、母親のキャリアも途切れがちだ。英誌『エコノミスト(The Economist)』によると、主要29カ国の女性の働きやすさランキングで、日本はワースト2位。最下位は韓国。ランキングは、男女の賃金格差や育休、子どもの教育にかかる費用、管理職や議会の女性比率など10の指標に基づいて評価されたものだったのだが、『エコノミスト』は日本と韓国について、「女性がいまだ家庭かキャリアかを選択しなければならない」と指摘している。

 働きづらく、産みづらく育てづらい国、日本。一方で、産んでいない女性にも冷淡だ。昨年、「困難な問題を抱える女性支援法」が成立したが、若年女性やDV被害者、シングルマザーが中心で、中高年シングルは放置されたまま。結婚や出産というキーワードが絡まないと、たちまち女性支援からも弾かれるというのはよく見てきた光景だ。

 ちなみに政府は「異次元の少子化対策」のひとつとして、フリーランスや自営業者ら向けに育児中の経済的支援を創設するらしい。やらないよりはマシだが、遅きに失したというのが正直な感想だ。

 こうして女性に冷たいこの国で、昨年、子どもの自殺者は514人と過去最多になっている。

 子どもを作れという割には子育て支援はいまだ薄く、いつからか世の中には子連れヘイト、ベビーカーヘイトのようなものが溢れている。そうして当の子どもが幸せかと言えば、先進国の子どもの状況を比較・調査するユニセフの報告書「レポートカード」によると、20年の日本の総合順位は38カ国中20位。精神的幸福度はワースト2位となっている。

 女性にも、子どもにも優しくない国。かと言って男性も決して幸福そうではない。あれ? じゃあ誰が幸せなんだ? なんだかもう、よくわからなくなってきた。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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