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連載

親しい人の最期から考えた自らの老後と『塀の中のおばあさん』

雨宮処凛(作家、活動家)

 実際に万引きで捕まった女性もインタビューに応じている。「トマトやキュウリ1本ぐらいでここに来ちゃった」と語る70代女性が刑務所に来たのは7回目。夫の暴力への「腹いせというわけでもないんだけど」、万引きをすると気持ちが落ち着いたという。

 別の80代の女性は、スーパーで野菜やおかずを盗んで刑務所へ。入所は3度目。生活に困窮していたわけではないが、夫やきょうだいの死などの喪失感、また老後への不安から節約したいという思いがあったようだ。

 また、ある80代の受刑者は、「デコポンとリンゴ、牛乳、レトルトのカレー」を盗んで刑務所入り。別の90歳近い受刑者は、「スーパーでイチゴを盗んだ」。70代まで仕事をしていたが、「生活が苦しく、コメなどの食料品をそれまで何度か盗んだ」果ての犯行。また別の70代女性は、「節約したい」という思いから夕食の材料を盗んで収容されたという。

 本書によると、高齢者が盗んだものの金額は3000円未満が約7割を占め、品物は食料品類が69.7%(法務省「平成30年版 犯罪白書」)。

 万引きの動機として多いのは、高齢者の場合「節約」。高齢女性ではその割合は約8割にまで上るという。また、高齢被疑者は一般高齢者に比べ、「現在の生活が苦しい」と感じている者の割合が多く、一般高齢者17.7%と比較して、高齢被疑者では44.6%。

 いつからか、「人生100年時代」なんて言葉をよく耳にするようになった。が、それが意味するのは、長い長い老後を過ごさなければいけないということだ。そんな中、誰もが老後への不安を抱えている。それは私たちから見てすでに「老後」を迎えている人も例外ではない。いつまで生きるのか、医療費はいくらかかるのか、最後は高齢者施設などに入所するのか、その入居費は、そして月々いくらかかるのかなど、考えれば考えるほどに「老後の人生、金次第」という事実にぶちあたる。今の時代、子どもにだってなかなか頼れないだろう。逆に現役世代が高齢の親から援助してもらっているなんて話も聞くくらいだ。が、高齢者がみんなお金を持っているかと言えば答えはノー。日本の貧困率は全世代で15.7%だが、66歳以上では20%。しかも65歳以上の単身女性に限ると56.2%。5人に1人の高齢者が貧困というのが実態なのだ。

 2009年には、そんな高齢者の貧困を象徴するような事件が起きている。群馬県の高齢者施設「静養ホームたまゆら」で火災が発生して10人が死亡したのだ。火災後に世間を驚かせたのは、亡くなったうちの7人が群馬県から遠く離れた東京で生活保護を利用する人だったこと。しかも施設にいた22人のうち、実に15人が墨田区の紹介で入所していたのだ。

 なぜ、このような事態が発生していたのか。それは、身寄りがなく、貧しい高齢者の受け皿が圧倒的に不足しているということに尽きる。そんな「たまゆら」は無届け施設で認知症や障害がある人が多かったのだが、違法な建て増しで施設内の構造が複雑だった上、防火設備はなく、当直は1人。また、認知症の人の部屋には外から鍵がかけられていた。そんなことから多くの命が奪われたのだ。

 このような話を聞くと、「未来の自分たちの姿ではないか」という暗澹たる気持ちに襲われる。ちなみに40代単身の貯蓄ゼロ世帯は実に4割。そして現在40代の未婚率はというと、40~44歳で26.9%。45〜49歳は24.6%(2020年 国勢調査)。このまま結婚せず、子どもも持たず、そして貯金もない層がどうやって老後を乗り切るのか。

『塀の中のおばあさん』では、そんな現在40代のロスジェネの未来予想図にも頁が割かれている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、生涯未婚率(50歳時の未婚割合)は40年には男性約3割、女性は約2割まで上昇するという。40年と言えば、私は65歳(!?)。そしてその5年後の45年には総人口に占める65歳以上の女性の割合が2割を超える「おばあさんの世紀」が来ると予測されているという。しかも国の研究機関の推計によると、45年には女性の平均寿命は現在(21年)の87.57歳(男性は81.47歳)を上回り、90歳を超える見通しだというではないか。

「おばあさんの世紀」。なんだかショッキングな言葉だけど、「おじさんの世紀」とか「荒ぶる若者の世紀」とかよりは平和な気がしないでもない。だけどおばあさんがマジョリティになったら、きっと壮絶な「高齢者ヘイト」が広がるだろう。そういえば、故・石原慎太郎都知事は「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババア」「女性が生殖能力を失っても生きているのは無駄で罪」などと他人の言葉を引用する形で発言して大きな批判を浴びたが、「おばあさんの世紀」にはそんな「ババアヘイト」が溢れ、22年公開の映画『PLAN 75』(75歳以上が自らの生死を選択できる制度が施行された世界を描く/ハピネットファントム・スタジオ配給)みたいな政策が本当に実現してしまうかもしれない。

 そんな国に生きるのは、どうしたって勘弁してもらいたい。それは「おばあさん」というだけで罵倒され、場合によっては殺されるかもしれない世界だ。それに「おばあさん」って、究極の弱者だ。ひったくりだって強盗だって、腕力のない高齢女性がターゲットにされやすい。

 最悪の未来予想図が的中しないために今、できること。それがなんなのか、必死で知恵を絞っている。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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