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連載

変革への闘い

「ラテンギャング・ストーリー」14 「性暴力」を生き延びる少女たち 

メキシコ国境編2

工藤律子(ジャーナリスト)

 身の危険を感じ始めたアリシアは、まもなく実母が暮らす農園へ引っ越す。母親は、弟妹と共に、農園主の家政婦として雇われ、敷地内にある家で暮らしていたからだ。そこで弟妹の面倒を見ながら、中学へ通うことにした。ところが、しばらくして、通学路に見覚えのある男が立っていることに気付く。

「テグシガルパで私を脅したマラスのメンバーだったの」

 背筋が寒くなるのを覚えた彼女は、すぐに実母の家を出て、姉夫婦の家に移った。ところが、携帯電話に「お前がどこにいるかは、知っている」というメッセージが何度も送られてきた。追い詰められた少女は、わずかなお金を手に町のバスターミナルへ向かい、偶然そこにいた友人(20)に「ギャングに追われているの!」と泣きながら助けを求めた。

「友人はお金を持っていたので、“一緒に行ってあげる”と、私とバスに乗り込んだわ」

 移民少女の旅は、いきなり始まる。それから約1週間後、アリシアと友人は、ヒッチハイクと徒歩での移動を繰り返しながら北上し、ついにグアテマラ北西部とメキシコの国境を越えて間もなくの町、テノシーケの「移民の家」にたどり着く。幸い、道中、手を差し伸べてくれた者たちから、暴力を振るわれることはなかったと話す。

「とにかく用心しながら、神を信じて旅を続けたの」

 年齢よりも大人びて見える少女は、「移民の家」と子ども移民のための施設に計5カ月近く滞在した末に、今いるNGOの定住施設に落ち着いた。共に旅をした友人は、メキシコに着いて1カ月ほどした頃に、他の移民たちのグループと米国へ向かった。

「今は幸せ! だって、ここでは自分の好きな勉強ができるんですもの」

 少女はそうほほ笑み、苦労の連続だった幼少期の影を払いのけるかのように、きっぱりと言う。

「今の夢は、農業技師になること。とにかく大好きな自然の中で働きたい」

 約2時間、語り続けた人生は、「農業技師」とは結び付かない世界だ。が、「子どもの頃から、農園で働くことに憧れていた」と言う少女は、本気で大学進学を夢見る。

 アリシアの隣でずっと話に耳を傾けていたもう一人の少女は、義姉とその弟、友人の3人と連れ立ってメキシコにたどりついた、という話だった。彼女もアリシア同様、テノシーケで難民申請をして、この施設を紹介された。メキシコまでの道中で、何らかの性暴力被害に遭ったようだが、本人は語ろうとしなかった。「メッシのようなプロサッカー選手になるの」と大真面目に語る表情からは、意志の強さがうかがえる。

アリシアの隣りで話をきいていた14歳の少女は、時折、暗い表情を浮かべた。 撮影:篠田有史

 この1年間にメキシコの入国管理局に拘束される移民少女の数は、子ども移民危機と言われた14~15年と同じレベルだとして、おそらく1万4000人は軽く超えるだろう。「移民キャラバン」を含めれば、さらに多いと予想される。16年に拘束された移民少女1万4178人のうち、1万3625人が強制送還になっていることから考えると、マラスに象徴される暴力から逃れてきた少女の中で、希望の光を見つけられる者は、ごくわずかだ。

 そして今、メキシコの土を踏んだ後も、マラスに怯え続けなければならない現実が迫っている。

(続く)

 

※最終回となる第3回は、近年メキシコに広がるギャング団「マラス」の脅威を取材。マラスの暴力から逃れるため、命懸けでメキシコに渡った移民たちを待ち構えていたものとは……。12月3日リリース予定。
当連載を基に大幅加筆した単行本『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)が文庫化しました。(集英社文庫『マラス 暴力に支配される少年たち』のサイトへ

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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