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変革への闘い

「キューバに生きる」4 ナリアが祖国で描く夢

工藤律子(ジャーナリスト)

 私は一番気になっている「借金」のことを、まず聞いてみた。いつ支払われるのか。
「多分年明けになると思うわ。今は必要なお金を友人に借りて、何とか前へ進んでる」
 ほかの事業を行う資金を友人に借りては売り上げから返金し、残りのお金で生活する日々が、半年近く続いているという。
「大変だけど、何とかなるものよ。家族や友人が支えてくれるから。それに何より、私はこの仕事が好きだから」
 笑顔で語る彼女に、こんなことがあっても役所相手の仕事を続けるのかと尋ねると、こう応じた。
「国家機関との仕事は、(間違いを含めて)すべてが明確なところがいいの。個人と商売をすると、依頼内容がコロコロ変わったり値切られたりと、駆け引きばかりで大変になる。それがない分、自分の仕事に集中できるところがいいわ」
 自らの仕事に、大きなやりがいを感じているようだ。
「私はね、内装デザインの仕事が大好きなの。キューバのように、いろいろなモノが不足している国にいても、この仕事でなら、想像の翼が広げられる。自分のアイディアを、自分の手で形にできる。自分のイマジネーションと創造力が生かせるのよ」
 ナリアにとって、仕事はお金儲けのためというより、自分の想像力で新しいものを創り出す醍醐味を味わうためのもののようだ。仕事を楽しみながら、祖国で未来を切り開こうとしている。
「資金ができたら海外にも出かけて、内装デザインについての新しい知識や情報を得たいわ。そして、もっといい仕事がしたい。家族のいるこの国で、自分たちの夢を育てていきたいの」
 そう言った直後に、「むろん、あなたたちも家族の一員よ」と言い添えた。
 家族といえば、ナリアは、両親の離婚後、ずっと母親と義父、新たに生まれた弟妹と共に暮らしていた。ところが、中学生の時に母親が急死し、ナリアは幼いきょうだいの母親代わりも務めなければならなくなったという。その一方で、父親が自分の母親以外で妻にした女性たちや、彼女たちとの間に生まれたきょうだい5人とも、とても親しくしている。つまり、互いを受け入れ、思いやり、信頼し合える者こそが、ナリアの言う「家族」なのだ。

アイラン(左端)の家に集まったナリア(右端)ら父方の家族。 (2017年9月)撮影:篠田有史

 社会的な男女格差がなく、経済的理由で離婚を踏みとどまる夫婦は少ないせいか、離婚や再婚が珍しくないキューバでは、親同士の関係にかかわらず、子どもは両親やきょうだいとのつながりを保てるよう、配慮する家庭が多い。そんななか、ナリアは、自分の「大家族」との絆を大切にしてきた。そのつながりの中で未来を築いていくことが、彼女の夢だ。
 様々な「不足」に喘ぐ国で、自分の夢を追うことは、容易ではない。海外から資本を送ってくれる家族や親戚がいるわけではないナリアのような人間にとっては、なおさらだ。それでも、あくまでキューバで闘う若き友の生き方は、ひとつの真実を訴えかけている気がする――。夢を追い続けるために本当に必要なのは、お金やモノではなく、自分を含む人への信頼と、自らが望む未来を描き上げていく力なのだ。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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