ラテンギャング・ストーリー19 マラスと生きる女性たち~ジェシカ(上)
工藤律子(ジャーナリスト)
「やけになった私は、どんどん女性メンバーを勧誘し、麻薬を売りさばき、未成年犯罪者の更生保護施設にも世話になりました。やがて、年齢をごまかして刑務所に入るミッションも行うようになったんです」
成人の女性メンバーは、刑務所に服役中のホーミーたちに必要なものを運ぶ仕事をしていた。まだ16歳だった彼女は、「18歳(の成人)」と書かれたニセの身分証を手に入れ、運び屋を始める。
「脱獄のためのトンネルを示す地図を、刑務所に持ち込む作戦を指揮したこともあります。1枚の地図を75片に切り分けて、1片ずつコンドームの中に隠し、仲間の女性一人ひとりに持たせたんです」
企みは途中で警備員に気づかれ失敗したが、同じような方法で武器を持ち込んだこともあった。
「手榴弾を分解して、一部分ずつ運び込みました。それを中にいるホーミーが元どおりに組み立てたんです」
ホーミーの中には高等教育を受けた者はいなかったが、それでも経理や武器の専門知識を持つなど、特技のある人間はいた。ジェシカも、手持ちの道具や薬草を使って傷の手当てをする術を身につけていた。
「撃たれた傷の手当ても、警察に知られないよう、自分たちで行ったからです。ナイフで銃弾を取り除いてから、砂糖か蜂蜜、新鮮な牛の肝臓を使って肌を修復するんです」
にわかには信じがたい方法だが、やった本人が言うのだから効くのだろう。

ジェシカがギャングとして活動していたサン・ペドロ・スーラの街なか。撮影:篠田有史
「MS-13の『コネーハ』」の名は、こうしてサン・ペドロ・スーラの街にいるマラスと警察機関に知れ渡るようになった。その頃、長女の父親と偶然再会し、一夜をともにし次女を妊娠するが、それも17歳の少女にとってはハプニングにすぎなかった。彼女は、赤ん坊を祖母に預け、ギャングを続ける。
「私の家族はギャング団だけ。そう思ってたんです」
たまに次女に会おうとしたが、簡単にはいかなかった。祖母の家は敵であるM-18の縄張りにあったからだ。そこで、マラスの活動が活発になる夕方5時以降を避け、真昼間にコソコソと敵地に忍び込んだ。
そうして続いた街でのギャング生活は、ある日突然、終わりを告げることになる。警察に捕まったのだ。
「仲間数人とファストフード店でバーガーを買って、支払いをせずに店を出たんです。石を拾ってガラス戸に投げつけ、割れる音を背に走り去ろうとしました。そこへDGICが現れたんです」
DGIC(現・DNIC=国家犯罪捜査部)とは、当時殺人と麻薬犯罪を専門に調査していた警察組織だ。彼らは「MS-13の『コネーハ』」をマークして、密かに後をつけていた。
「DGICの連中は車ですうっと寄ってくると、窓越しに『コネーハ!』と叫びました。私服だったので最初は警察だとは思わず、『違うわ』と言い返すと、男が降りてきて私の腕を掴み、『お前はコネーハだ!』とブラウスの袖を引きちぎりました。それでMSというタトゥーが見えてしまったんです。もう言い逃れはできませんでした」
現行犯逮捕された少女は、刑務所へ送られる。ニセの身分証では18歳ということになっていたため、成人扱いされたのだ。行く先は、ホーミーたちがいる、街で最大の刑務所。そこでは、途方もない運命が待ち受けていた。(つづく)