imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い3「フードバンクちば」 食でひとといのちをつなぐ地域連携

工藤律子(ジャーナリスト)

 フードバンクちばの事務所兼倉庫は、千葉市中央区のショピングセンターなどが立ち並ぶ商業エリアにある。以前は店舗兼レストランとして使われていた大きな平屋建物を、地元ロータリークラブの仲介で安く賃貸できることになり、2020年11月に引っ越してきた。前の拠点の2倍以上の広さがあるという。取材の日、そこではスタッフ2人とボランティア3人が働いていた。
「子育ても終わったし、家事の合間に時間があるので、お手伝いしています」
 そう気さくに話すのは、入り口から奥の部屋へと伸びるスペースで仕分け作業をする60代の女性だ。所狭しと積み上げられた箱の中の食品を、賞味期限別に分けていく。半年ほど前に近くへ引っ越してきて以来、週1回はボランティアに来ていると、微笑む。
「人手が足りなければ、いつでも来ます」
 入り口左手の広いスペースには、缶詰、レトルト食品、調味料など、種類と賞味期限別に分けられた食品が、整然と棚に並べられている。米は、県内の農家や農業協同組合(JA)から寄付された玄米を専用の機械で精米し、一人分2キロのビニールパック詰めにする。それらをボランティアが、個人宅へ発送するダンボール箱へと詰めていく。1〜2人世帯と3〜4人世帯、二つの異なるサイズの箱に、1〜2週間分を想定した計7〜10キロの品物を入れる。 
「ボランティアの方には、支援団体から送られてくる食品配達申請書に書かれている年齢やアレルギーの有無、持っている調理器具などに合わせて、中身を選んでもらっています」
 そう説明するのは、常勤スタッフの高橋晶子さんだ。2011年にワーカーズコープちばに入り、生活困窮者支援事業に携わってきた。東日本大震災がきっかけだったと言う。
「千葉も被害がひどかったんですが、支援体制が貧弱だと気づいたんです。もっときちんとした支援の形を作り、人の役に立つことをしたいと思いました」

 

パートで働く執行芳子さんも、連携団体である「コープみらい」を退職した後、ここへ応援に来た。撮影:篠田有史

 

 7年前から関わっているという60代と70代の夫婦は、退職後、たまたまテレビで「フードバンク」を知り、インターネットで自宅から比較的近いところにあるフードバンクちばを見つけて、ボランティアを始めた。
「毎週、金曜日の午後に2、3時間、楽しみながらやっています。初めの頃は、倉庫にあるおかずが少なくて、お米ばかりで申し訳ないと思いながら詰めていましたが、今はたくさん種類が揃っていて夢のようです」
と、笑顔を浮かべる。

 

賞味期限や種類別に並べられた食品を箱詰めする、ボランティアのご夫婦。撮影:篠田有史

 

フードバンクの使命

 2020年5月以降、県内の大学関係者との連携により、アルバイトができずに生活が苦しくなっている留学生を中心とする大学生への支援も実施してきた。パンデミックにより、フードバンク活動のニーズはますます高まっている。だが、現在、日本にはフードバンクに関する法制度がないため、フードバンクはどこもボランティア団体として活動しており、その運営は不安定だ。資金はもっぱら寄付や助成金頼みで、活動を継続するための苦労が絶えない。
 フードバンクちばもその例外ではなく、2021年度からの3年間は県内全域の活動基盤を築くための助成金を得ているが、助成期間が終われば、また資金の調達方法を探らなければならない。代表の菊地さんは言う。
「国がフードバンクを制度化し自治体が予算を付けるようになるか、企業や生協、社協などと皆で運営資金を出し合うか、このフードバンク自体が収益の出る別の事業を並行して行うか。打開策は、その3つが考えられます」
 菊地さんたちは、元レストランだった事務所建物に備え付けられている厨房を生かした事業など、いくつかのアイディアを検討している。知恵を絞り、活動の継続と発展に努力する裏には、こんな思いがある。
「フードバンクは、ただ食品を配っているだけのものではないんです」
 フードバンクちばは、ワーカーズコープと社協、生協、企業、そして市民が一体となって社会を支える仕組みの一つだ。食べるに困る人には、食料を提供するだけでなく、困難の原因を突き止め解消するための支援につながり、地域の人々とともに安心して暮らせるようになってもらえることを目指す。
 日本や世界各地のフードバンクの中には、食品を受け取る団体・組織に資金協力を求めたり、企業からの寄付や助成金を主な財源として活動するところもあるが、フードバンクちばは少し違う。助成金で活動基盤を充実させながら、あくまでも市民や地元の企業・組織との連携を軸に置いて、地域の連帯が生まれるような活動を展開する。そしてまた、市民への啓発活動として、食品ロスに関する講演会を開いたり、夏休みの中学生にフードバンクの取材をしてもらったりもしている。

 菊地さんは、フードバンクへの思いをこう語る。
「フードバンク活動は、企業に食品ロスや貧困問題に気づいてもらうのと同時に、フードドライブを通して、地域の人々に、身近なところにある問題に目を向け、関心を持ってもらえるところに大きな意義があります。普通の人は、『生活困窮者』と言われても、『ご飯が食べられない人なんて、本当にいるの?』という感覚だと思うんです。でも、フードバンクに自分の家で余っている食品を寄付するということを通じて、問題に気づき、困った時はお互い様という、地域の助け合いの文化が育つのではないでしょうか」

フードバンクちば
設立年 : 2012年
人数 : 常勤1人、パート1人
事業内容 : 生活困窮者への食料支援
モットー : いのちをつなぎ、支え合う社会

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。