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変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い13「見樹院・寿光院」 「共」を育む

工藤律子(ジャーナリスト)

 その一方で、途上国の子ども支援を続けていた大河内さんは、もう1つ、地域の課題に気づく。
「私がアジアの子どもたちへの支援を始めた頃、国連で『子どもの権利条約』が起草され、1989年に採択されました。この制定過程や様々な議論を見てきた中で、途上国での紛争や貧困、環境破壊に苦しむ子どもだけでなく、日本におけるいじめや管理教育、援助交際などの問題も『子どもの権利条約』の理念によって救われるはずだ。そう感じて、身近な地域でも、子どもの権利が尊重される社会を創っていこうと考えたんです」
 そこで仲間と立ち上げたのが、市民グループ「江戸川子どもおんぶず」だ。その活動拠点は、寿光院の所有地に建つ空き家を利用した「松江の家」(松江地区)。市民立発電所の太陽光パネルをリニューアルする際に取り外したパネルと中古のバッテリーを組み合わせ、電力会社からの供給を受けずに電力を賄う、オフグリッドのモデルハウスだ。そこでは、大河内さんを含む10人ほどのメンバーを中心に、子どもの居場所づくりや、子どもの権利条約の普及のためのワークショップなど、いろいろな活動が展開されている。
「2001年末に、チャイルドラインをやることから始まったんです」
と、中心メンバーの1人、青木沙織さん(43)。電話で子どもの声に耳を傾けることから始まった活動は、地域の子どもたちともつながり、その声を様々な形で表現する機会を生み出していく。そして、大人と子どもが一緒に、子どもの権利が尊重される持続可能な社会をどう創っていくかを考え、行動するための地盤を築いてきた。
「私たちが目標として掲げてきた『江戸川区子どもの権利条例』が、昨年やっと制定されました。その過程において、区主催の中高生から意見を聴くワークショップを任されたんです。20人ほどの中高生が参加してくれて、2回開催しました。そこで上がった声を反映する形で条例ができたので、今度はどうやって周知していくかを考えているところです」
 青木さんは、楽しそうにそう話す。

「松江の家」に集う仲間たち。中央は大河内さん。その右隣は「足温ネット」事務局長の山﨑求博さん。左端が「江戸川子どもおんぶず」の青木沙織さん。撮影:篠田有史

市民社会を育む

 江戸川区に寿光院が所有する土地や建物では、ほかにも様々な市民団体が共生しながら活動している。
「松江の家」から近い「ほっと館」は、NPO法人「ほっとコミュニティえどがわ」が、寿光院の土地に建設して運営する高齢者住宅。建物1階は、地域の人たちも利用できるコミュニティレストラン「ほっとマンマ」で、毎週土曜日には近隣の高齢者のためのデイサービスに、月1度は子ども食堂に利用されている。2階と3階が住宅で、「施設か、自宅か」ではない高齢者の新しい住まいの選択肢を、地域に創り出している。

桜の時期の「ほっと館」。1階には、コミュニティレストラン「ほっとマンマ」があり、2階と3階が住宅になっている。撮影:篠田有史

「ここでは介護度や年齢による制限はありません。最後まで自分らしく生きたい、いろんな人と関わりたいという人が暮らしています。地域のお祭りやサークルに参加している方や、ここで麻雀教室を開いている方もいますよ」
と、スタッフ。現在、平均年齢92歳の女性9人が住む。もう1人、「同居人」と呼ばれる35歳の男性も入居している。スタッフがいない夜間は、若い住人の存在が、心の支えになるからだ。若者にとっても、仕事からの帰りが遅いと夕飯の差し入れをしてくれるおばあさんがいたりと、心和む環境が生まれている。
「松江の家」の南西には、寿光院がNPO法人「愛菜会」のために建てた自立支援施設「あみたハウス寿・光館」がある。そこでは5人の女性が、スタッフのサポートを受けながら生活している。皆、江戸川区内の作業所へ働きに通っており、交代で働くスタッフ6人も地域の住民だ。スタッフは言う。
「ここは、コミュニティとのつながりを保ち、出身地域の中で働き暮らすことができる施設なんです」
 そこにも大河内さんが語る「ヴィレッジ」や「共同体」の思想が息づいている。

自立支援施設「あみたハウス寿・光館」の一室で暮らす女性。住宅棟は2階建で、風呂や食堂は、スタッフがいる別棟にある。建物はすべて天然素材だ。撮影:篠田有史

 そのほか、東小松川地区にあるマンションの2階には、「小松川市民ファーム」と名付けられた寿光院所有の部屋がある。足温ネットや未来バンクなど、大河内さんが運営に参画する団体を含む5つのNGO・NPOが、事務所を置く。
「市民自らが地域の課題に気づき、対応し、制度を変えて、社会を形作っていく。あるいは世界の課題に取り組んでいく。そんなスタンスの市民団体ばかりです」
と、大河内さん。見樹院と寿光院の周りには、多様な市民の社会活動が生まれ、つながり、広がっている。それを支え、ともに豊かな市民社会を築いていくのが寺の役割だと、大河内さんは考える。
「お寺とは、住職も檀家も皆が協働して、地域社会に参加する仕組み。市民社会の一部です。そこでは、『いろいろな人の参加』が重要になります。市民社会全体においても、同じことが言えるのではないでしょうか」
 様々な市民が主体的に参加し、豊かな社会を創造するという精神は、ブッダの教えに通ずるところがあるという。
「自分がいかに他者と結びついているかを大切にしながら、主体的に生きる。市民一人ひとりが尊重されつつ、当事者として参加するコミュニティ、つまり『市民社会』を育むことが、仏教の目指すところでもあると、私は思うんです」

見樹院・寿光院
事業内容 : 通常のお寺仕事のほか、市民活動にも注力している
モットー : 欣求浄土 無核無兵

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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