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連載

変革への闘い

「ストリートチルドレン」と呼ばれて8 路上人生

工藤律子(ジャーナリスト)

消えた「路上の友人」

 翌年、メキシコシティにもどってきた私は、さっそくフアナに電話した。2年で出られるのだとすれば、カルロスからもう何か知らせがあったはずだ。しかし、彼女の返事は、「ノー」。まだ電話はないという。
 嫌な予感を抱きながらも、私は拘置所へ行く前にカルロスがいた、あの大きなテントを訪ねてみることにした。もしもう出所していて、フアナたちのところに行っていないとすれば、いる可能性があるのはあそこしか思いつかない。
 いて欲しいような欲しくないような。複雑な思いを胸にたどり着いたテントには、拘置所で会った時からは想像がつかないほど、暗く険しい表情のカルロスがいた。
「前に言った仕事はもらえなかったから、ここに戻ることにした」
と、言い訳めいた言葉を漏らす。フアナに連絡しなかった訳を尋ねても、「電話番号を書いた紙をなくした」と言うばかり。

カルロス(左)と一緒に出かけても、会話は以前ほど弾まなくなっていた。2012年 撮影:篠田有史

 私と篠田は、それから何度もテントにカルロスを訪ねたが、拘置所に入る前と同じように、薬物を使い、その販売を手伝っているようだった。そのことを、拘置所訪問を続けるNGOの友人に話すと、こんなことを言われた。
「真の犯罪に関わっている連中は、拘置所内でも薬物絡みの違法商売をして、親分・子分関係を築いている。だから、軽い罪で入った若者までが、出所する頃には本物のワルになっていることが多いんだ。カルロスもきっと、そうした連中に取り込まれてしまったんだろう」
 ようやく人生に別の選択肢を見出そうとしているかに見えた路上の友人は、また振り出しに戻ってしまっていた。そしてまもなく、私たちは、彼を完全に見失ってしまう。テントから姿を消し、仲間に尋ねても行方がわからなくなってしまったのだ。
 10年以上見つめ続けてきた友は、果たしてどんな運命を生きているのか? それから何年もの間、私たちがそれを知ることはなかった――。

テントの前で、少しだけ話をしてくれたカルロス。これを最後に、行方がわからなくなった 撮影:篠田有史

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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