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第17回 望月衣塑子「歴史に学ぶ」

「戦争したいのは誰なのか」

望月衣塑子(東京新聞社会部記者)

(構成・文/村山加津枝)

 こうした動きとは別に注目を集めたのが、冒頭に挙げた日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」である。通常の委員会を受けて、2017年2月4日には公開シンポジウムも開催され、同会議の会員以外も含め300人以上が参加し、議論を重ね、3月24日には声明が発表された。
「声明案を4月7日の総会にかけるべきとの意見もありましたが、前倒しで幹事会の場で声明が決定しました。総会決定の重みが薄れたとの指摘もありましたが、大西会長ら軍学共同の推進論者が委員にいる中で、1950年の『戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない』、67年の『軍事目的のための科学研究を行わない』の二つの声明を継承する、との方針を、具体例を提示しつつ何とか打ち出しました。しかし、防衛装備庁が始めた助成金制度への応募禁止には言明できなかったことへの懸念もささやかれています。
 大学への研究費を削るいっぽうで、この制度については、初年度から毎回研究費の金額がアップし、平成29年度は、28年度の6億円から110億円と18倍になりました。応募数は27年度の109から28年度は44と激減しましたが、29年度はどうなるのか、心配です。
 大学における軍民両用のデュアルユース品の研究・開発に拍車をかけるのは“国策”という言葉かもしれません。しかし、国策として原子力発電事業に舵を切った東芝は、皆さんご存知の通り、大きな危機に瀕しています」
 増額しているのはこの研究費だけではない。2016年12月22日に閣議決定した予算案では、日本の防衛関係費は5年連続で増額、5兆1251億円と戦後最大となった。
「今年の4月24日に、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が、『2016年世界の軍事費』を公表しました。

 1位はアメリカで年間6110億ドル(約67兆円)、意外に思う人もいるかもしれませんが、日本は461億ドルで前年と同じ8位に入っています。先日、国産初の潜水艦が話題になった中国の軍事費は、あくまでSIPRI の見積もりになりますが2150億ドルで第2位です。
 私は、日本は防衛費を増加して抑止力とするのではなく、したたかに外交戦略、対話戦略を続けるしかないと思います。こんなことを言うと、理想を語ってどうすると反論する人がいます。しかし、対中国で考えると、軍事費にこれだけの差があり、戦闘機の数も圧倒的に少なくては、対抗できるはずがありません。だからといって中国と同等の軍事費を捻出することも不可能です」

“いつか来た道”を歩んではいけない

 それでも、北朝鮮の脅威から、防衛費増額に賛成する人が増えつつある。また、今後、トランプ大統領からアメリカ基地への思いやり予算(「在日米軍駐留経費負担」)の増額要求があるかもしれない。アメリカが守ってくれることに期待する国民はこれにも反対しないかもしれない。
「国民の空気が、軍事拡大が必要である、という方向に変わっていくことが怖いですね。それは、日本が“いつか来た道”を歩み始めるということにほかなりません。
 これまでは、武器輸出で自国製の武器を売り、それが使われたとき日本は、間接的に戦争しているのと同じことになる。そうなれば武器関連の企業に限らず、研究開発している企業、大学や研究機関もテロの標的になる危険性が数段アップすることにつながると警告してきました。しかし、いまや、間接的ではなく、直接戦闘に加わる危機がすぐそこまで来ているのかもしれません。
 取材をしてきた関係者の中には、あくまで個人的な意見、あるいは名前を出しては困るとの前置きをして、本音を語ってくれる人たちがいます。その多くが、戦争をしたいなどとは考えていません。いったい戦争をしたがっているのは誰なのでしょうか?
 先の戦争に向かわせたのは、政府や軍人だけではありません。何かに誘導されて国民自身が戦争を後押しする。そんな時代が繰り返されないことを、切に願っています」”

著者情報

東京新聞社会部記者

望月衣塑子

もちづき いそこ

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。社会部記者として千葉、埼玉など各県警、東京地検特捜部、東京地方裁判所、東京高等裁判所などを担当。出産後、経済部に復帰。現在は社会部に戻り、武器輸出、軍学共同などを主に取材。主な著書は『武器輸出と日本企業』(2016年、角川新書)、共著は『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(16年、あけび書房)。(2017.5)

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