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連載

第23回 伊勢崎賢治「戦場のリアル」

「現代の戦争で勝つ」とはどういうことか

伊勢崎賢治(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)

(構成・文/仲藤里美)

 アフガニスタンで武装解除などを担ってきた“紛争解決人”伊勢崎賢治さんに、「現代の戦争はどのように始まり、どのように終わるのか」をお聞きしました。対テロ戦争など、長期化することが当たり前となった現代の戦争においては、もはや軍事大国のアメリカですら「戦争に勝つ」ということが困難になっている、と伊勢崎さんはいいます。北朝鮮情勢が緊迫する中、新たに戦争を始めるリスクをどのように考えればよいのでしょうか。

現代におけるリアルな「戦争」とは

 かつて、戦争とは基本的に「国家対国家」によって行われるものでした。たいていは宣戦布告によって争いが始まり、領土などを奪い合い、最終的にはどちらかの国がどちらかの国の政権を武力で追い詰めて、降伏させたり講和に持ち込んだりすれば、そこで戦争は終わりだったのです。

 しかし、現代の戦争は、それとはまったく違う様相を呈しています。イラクやアフガニスタンのように、現代の戦争はほとんどの場合、政府が全土を掌握しきれていない国で起こっています。そうした国では、一応中央政権は存在しているものの、民族間の根深い対立や資源をめぐる争い、外国の介入などにより、政府以外にも数多くの武装勢力が各地で力を競い合っている。それに対して、アメリカをはじめとする国際社会が、「悪政からの解放」「民主主義を定着させる」などの口実をつけて、政権を攻撃するという形で戦争が始まるわけです。

 こうした場合、政府と講和を結んだ、あるいは政権を崩壊させたからといって戦火が収まるわけではありません。もともと、政権が武装勢力間の争いをかろうじて収めていたような状態であったのに、政権が突然なくなればどうなってしまうか――特に、講和を結ぶことができず、軍事力で政権をたたきつぶした場合には、政権の指揮命令系統もすべて破壊されるため、国内を治めることがいっそう困難になります。

 それまでの反政府勢力だけでなく、倒された政権に近いポジションにいて利益を得ていた人たちも、自分たちがそれまでやってきた悪行の復讐を受けることを恐れて、新政権への抵抗勢力となる可能性が極めて高い。また、外国軍による駐留に不満を抱いた人たちが、それに抵抗する勢力にシンパシーを抱き、取り込まれていくということも起こります。つまり、抵抗勢力がどんどん拡大していくのです。

 このように、政権を崩壊させたら戦争が終わるというのではなく、むしろ本当の戦争はそこから始まるといえます。政権を倒した後、活発化する武装勢力を相手とした「非対称戦」(多国籍軍対テロ組織など、戦力等に差異がある戦い)をどのように戦うのか、そしてどのように「占領統治」を進めていくのか、それらこそが、現代におけるリアルな戦争であるというのが、世界の軍関係者の共通認識になっているのです。

抵抗勢力を「力で押さえ込む」のは非現実的

 現代の戦争においても、軍事力だけで勝つ、つまりすべての武装勢力を力で押さえ込むという考え方もあります。この場合、実際にどのくらいの兵力があれば可能かということが、各国のシンクタンクなどによってすでに分析されています。 

 実際に成功した例があるわけではないので、あまり信憑性のある数字ともいえないのですが、もっとも一般的な数字は、人口1000人に対して兵士20人というもの。一番治安の悪い混乱期である政権が倒れた直後においても、それくらい兵力があればなんとか抵抗勢力を押さえ込むことができるといわれています。

 たとえば、アフガニスタンなら人口は3500万人弱ですから、それを力で押さえ込むためには70万人近くの兵士が必要だということになります。しかし、それだけの兵力を集めるのは、現実的ではありません。

 2001年にアフガニスタンを攻撃したとき、アメリカは同盟国に参加を呼びかけ、国連決議まで引き出しました。ところが、それでも最終的に送り込まれた兵士の数は、ピーク時でさえ14万人ほどに過ぎませんでした。それから考えると、「人口1000人に対して兵士20人」というのは、明らかに国際社会のキャパシティを超えている。そして、その数字を満たしたからといって、もちろん確実に勝てるという保証があるわけではありません。

 こう見ていくと、占領統治を「力で押さえ込む」という形で行うのは、もともと無理な考え方であることが分かります。

長引く駐留とともに「新たな敵」が生まれる

 ではどうしたらよいのか。現状で私たちが取り得る手段は、現地に「優良な“傀儡”政権をつくる」ということしかありません。抵抗勢力の一部をなんとか手なずけて新しい政権をつくらせ、それを通じて統治を進めるしかないと私は思います。統治には、民衆の心を掌握することが何より重要で、そのためには駐留軍の直接の軍政よりも、現地の人々による政権を立てたほうがはるかに有効だからです。

 ただ、このやり方は、駐留を長引かせる要因にもなります。いわば一から新しい国をつくり上げなくてはならないのですから、政権を立ち上げただけであとはお任せ、というわけにはいきません。残る抵抗勢力との和解を進めながら、警察や国軍を組織して育てていかなくてはならないし、継続的な訓練も必要になります。そうして、国としてのまとまりや人々の責任感を育てながら、駐留軍の数を少しずつ減らしていくことを目指すわけです。

 それをやり遂げるためには、駐留を5年から10年、もしかしたら20年といった長いスパンで考える必要が出てきます。駐留が長引けば、それだけ予算もふくらみますし、さらに問題なのは、当初の抵抗勢力以外の新たな敵が生まれてくる可能性が高いということです。

 たとえば、戦後、日本を占領統治していた米軍は、「冷戦」という新たな戦争が始まったことで、そちらに対処するために日本に居続けることになりました。日本という脅威に対処するためではなく、日本をベースにして他の脅威に対処するために、日本に基地を置き続けることになったわけです。

 これと同じようなことが、現代の戦争でも起こっています。たとえば、アフガニスタンのケースでは、当初、駐留軍にとっての「敵」は、アフガニスタンとその周囲に根を張って活動するタリバンという、局地的な脅威のみでした。ところが、世界中にネットワークを持つアルカイダという共謀者を得て、その脅威は国外に広がり、増殖していった。加えて、「イスラム国」(IS)という新たな脅威もアフガニスタンに流入し、タリバンと対立したりするなど、紛争構造を複雑化させている。さらには、その「イスラム国」が世界中に影響力を広げ、いわゆる「ホームグロウン・テロ」(過激思想に共鳴した者が自分が生まれ育った自国内で起こすテロ)を生み出すという形で、アメリカ本土にとっての脅威にもなっています。そんな状況を背景に、アメリカはいまだにアフガニスタンから撤退できずにいるのです。

駐留軍による「失敗」と人心掌握

 また、大人数の兵士が駐留するわけですから、当然そこではさまざまな「失敗」──すなわち、駐留軍による事故や事件が起こる可能性があります。そうなれば、地元の人たちの駐留軍に対する敵意は一気に高まる。先に述べたように、占領統治の最大の鍵は「人心掌握」ですから、これは最小限に抑えたいところです。

「失敗」を重ねて民衆を敵に回してしまった場合の最悪のパターンは、傀儡政権が独り歩きを始め、駐留軍に反旗を翻すというものです。傀儡政権を担う現地の人間は、「あいつら、外国人の味方をしやがって」というように蔑んだ見方をされることがあります。選挙になれば、野党からそうした攻撃を受けることもある。そこで駐留軍が事故や事件を起こしてしまって民衆の反感が強まれば、傀儡政権が民衆と一緒になって、駐留軍の敵に回るということもあり得るわけです。

 アフガニスタンで、タリバン政権の崩壊(2001年)後に発足したハミド・カルザイ政権の最後の数年は、まさにそうした状況でした。カルザイ自身が、政権保身のために反米キャンペーンの急先鋒に立ったのです。こうなると、占領統治がうまくいくはずはありません。

 こうした状況を避けるためには、なんとかできるだけ事故や事件を起こさないようにして、起きてしまったときにはその対処(関与した兵士の処罰や再発防止策)を適切に行う。そういうことを地道にやっていくしか方法はありません。駐留軍と傀儡政権の間で取り結ぶ「地位協定」に、そのための法体制をしっかりと組み込んでおく必要があります。

 

伊勢崎さんが世界32カ国の陸軍のトップを前に講演した国際会議2017 PACC(Pacific Armies Chiefs Conference)のプログラム冊子

 

「金正恩斬首作戦」はあり得るか

 私は昨年(2017年)、韓国のソウルでアメリカ陸軍が主催した世界32カ国の陸軍のトップが集まる国際会議に講演者として招かれ、そこでもこうした「占領統治」についての話をしました。

 講演後の意見交換では、北朝鮮についての話も出ましたが、一部でいわれる金正恩の斬首作戦などというものは「あり得ない」というのが全体の共通認識でした。金正恩を殺害して指揮命令系統を崩壊させてしまえば、これまで金正恩体制で特権をむさぼってきた人々が、復讐を恐れて抵抗勢力に回ることは間違いなく、占領統治の観点からはあまりにもリスクが高い、ということです。

 また、北朝鮮を軍事力で押さえ込むとすればどのくらいの規模の兵力が必要か、という話も出ました。北朝鮮の人口は2500万人強とされていますから、「人口1000人に対して兵士20人」という先述の試算に則れば、必要な兵力は50万人以上。それだけの兵力を集めるのは、どう考えても国際社会のキャパシティを超えています。

著者情報

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授

伊勢崎賢治

いせざき けんじ

1957年、東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。インドに留学中、現地スラム住民の居住権をめぐる運動に関わる。国際NGOで10年間、アフリカの開発援助に従事。2000年より国連PKOの幹部として、東ティモールで暫定行政府の県知事を務め、2001年よりシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長。2003年からは、日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を担った。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書、2004年)、『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』(朝日出版社、2015年)など。共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ、2017年)など。イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

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