第29回 米川正子「声をあげる」
米川正子(立教大学特定課題研究員)
(構成・文/朴順梨)
つまりコンゴ現政権は意図的に、一部の国民を見殺しにしているのだ。それを裏付けるかのようにムクウェゲ医師は映画『女を修理する男』の中で、2008年に国連に招かれてコンゴの性暴力について講演した際、コンゴ代表の席には誰も座っていなかったこと、2012年に再度招かれたときは当時のコンゴ保健大臣から「スピーチを中止しろ。発言すれば身に危険が起きる」と脅迫を受け、講演を中止したことを語っている。
さらにコンゴでは「ムクウェゲは性暴力被害者を助けるどころか加害者だ」などのデマが流されたり、自宅前で銃を持った男に襲われ、運転手が犠牲になったりしている。そのためムクウェゲ医師と家族は一時期、ヨーロッパに避難していたほどだ。
「性暴力を受けた女性たちと比較すると、被害は深刻ではないかもしれません。しかしムクウェゲさんも、現政権の被害者です。実際にお会いした彼は弱者のための英雄という感じで、行動も考えることもスケールが大きい印象を持ちました。だからどうしても『女を修理する男』を上映して、ムクウェゲ医師の活動を通してコンゴ紛争から性暴力、グローバル経済について学ぶ機会を日本でも作りたかったんです」
映画に登場するある少女は、レイプによる身体の痛みを訴えながら「(犯人は)苦しんで死ねばいい」と怒りをあらわにし、また別の女性はレイプされたことで家から追い出され、毎日泣いて過ごしたことを明かしている。ムクウェゲ医師はそんな彼女たちの傍らに立ち、身体だけではなく心も「修理」してきた。被害者の多くが「彼が私の人生を救ってくれた」と告白しているのは、決して社交辞令ではないだろう。
とはいえ、性暴力は最初から起きないに越したことはない。いくら「修理する男」がいたとしても、女性は本来壊れる必要などないからだ。そこでコンゴの性暴力を防ぐために日本にいてできることは、何かあるのだろうか。

「さすがに『コンゴ産のコルタンを使っている可能性があるから、スマホを持ってはいけない』とは言いません。しかし生産過程や採掘する人の労働環境などは、国際的に監視していく必要はあると思います。またこれはコンゴに限らず、日本における外国人労働者にも繋がる問題です。だから立場や境遇が違う相手であっても、自分と同じ人間だという視点を持つことが大事なのではないでしょうか。
遠いアフリカのコンゴで起きていることに目を向けるのは、難しいかもしれません。でも日本でも今、外国人労働者が搾取されていたり、雇い主からセクハラを受けているかもしれないことは想像できますよね。程度の差はありますが、似た問題が日本でも起きる可能性があるのを無視しないことです。私もコンゴに関わりムクウェゲさんと出会わなければ、知らないままだったことはたくさんあると思います。でも実際に関わらなくても他人に対する配慮や想像力を持つことで、良い方向に変えていけることはあると思います」