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連載

冬のための救出作戦 〜オオカマキリの卵嚢

第42回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 風が冷たくなるにつれて空気が澄み渡り、遠望の景色もくっきりと見える日が多くなりました。天候が冬型になると、北側にある比良山地にどんよりとした雲がかかることがあります。太陽は南に傾き加減で移動するので、「光の田園」の辺りは晴れているのに、北部は鉛色ということが頻繁にあります。こんな時に必ず出現するのが虹。セピア色の棚田にかかる虹はとても美しく、何度見ても心が洗われます。

光の田園から見える虹。背後には比良山地がありますが、灰色の雲に覆われています。

 この時期になると、アトリエではいろいろな冬支度が始まります。その一つが立ち枯れになった草花の刈り取りです。カーデンエリアのほとんどは毎年花を咲かせる宿根草なので、幹のしっかりとした植物は背丈50センチくらいを残してバッサリと切ります。そのほかはすべて根元から刈り込みます。
 秋に赤紫色の花を咲かせてくれたミソハギも切りますが、背丈が1メートル50センチを超えているので、草刈り機を使ってもけっこう大変な作業になります。おまけに、この時に注意しなければいけない大切なことがあります。それは、ミソハギの茎にオオカマキリが卵嚢(らんのう)を産み付けていることです。刈り取った草は乾燥させて燃やすので、そのまま放置していては卵もすべて焼け焦げてしまいます。そのため、草刈りをしながら、前方の枝に注意を払って卵嚢を確認します。

ミソハギの刈り取り作業。背丈があるので、慎重に行います。(撮影:今森元希)
ミソハギの枝に産み付けてあったオオカマキリの大きな卵嚢。(撮影:今森元希)

 これまで何度も失敗してきましたが、近年はほぼ確実に卵囊の救出に成功しています。多い時には20畳ほどのミソハギの群生地に、オオカマキリの卵嚢が20個も見つかったことがあります。たぶん、ミソハギの茎はしっかりとしていて風に揺れにくいので、母虫が安心して卵を産み付けることができるのでしょう。
 オオカマキリの卵嚢が付いている枝は、目の高さくらいの別の枝にまとめてくくりつけておくこともあるのですが、この時も注意が必要です。私が作業をしているのをどこかで見ているのかしらと思うくらいに、鳥たちがすぐにやって来て卵嚢を食べてしまうのです。せっかく卵嚢を避難させたのに、それが仇(あだ)となり全滅となれば気分が落ち込みます。そんな苦い経験を活かして、最近は卵嚢には春まで農具小屋の中で待機してもらうことにしています。もちろん、何度か水をかけて湿気を与えることは忘れません。
 雪の多い冬はオオカマキリが高い所に卵を産むと言われていますが、果たして本当なのでしょうか。確かに、毎年ミソハギを刈っていると、卵嚢の位置が高い年と低い年があるのは事実で、オオカマキリの母虫が産卵する晩秋の気候と関係があるように思います。
 ミソハギの刈り取りが終わるとちょっと一段落。冬支度の仕事が一つ片づきます。

刈り取った後は、水はけを良くするために浅い溝を設けます。草刈り機を使って、根と一緒に土もすくい上げます。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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