imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

宝石のような鳥 〜カワセミ

第44回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 霞んだ大気の中にゆるやかな棚田が続きます。私は湿り気を含んだ2月のこの風景が大好きです。この頃の田んぼは春の田植えの準備がすでに始まっています。畝(うね)がつくられ、水切りの溝も掘られて、そこに光が当たると立体感が出て、見事な造形美を見せてくれます。一方で、隣接したアトリエの下を流れる天神川は、ススキやヨシが枯れてセピア色の世界です。

光の田園の冬の風景。田んぼの畝が美しい模様をつくります。(撮影:今森元希)

 そんな冬景色の中を歩いていると、突然、真っ青な筋が稲妻のように横切ります。その正体はカワセミです。カワセミは、「光の田園」では決して珍しい鳥ではありませんが、色彩の鮮やかさにいつも感動します。青い鳥というとこの界隈では他にオオルリなども目撃しますが、カワセミほど低空飛行することはないので親近感が違います。

天神川のほとりの枯れたススキに止まるカワセミ。(撮影:今森元希)

 カワセミというと清流にいるイメージがあるかもしれませんが、この辺りを流れる天神川と大倉川は田んぼの水が流れ込む川なので、私には田んぼに関わる鳥という印象があります。数年前、ジャワショウビンという鮮やかな赤色のくちばしを持ったカワセミの仲間を観察しにインドネシアのバリ島へ行ったことがありますが、彼らの活動場所は棚田でした。バリ島の棚田は美しい曲線をもつことで有名ですが、田んぼに沿って小川が流れ、一部の田んぼには水が張られています。こうした水域は水生植物が繁茂していて、カエルや小魚がたくさん棲んでいます。ジャワショウビンはこうした小動物を食べているのです。
 ジャワショウビンはいつも田んぼにいるので、農家の人のことをあまり恐れていないようで、まさに人と共存している感じです。バリ島の人が神様に捧げる供物用の竹の棒にこの鳥が止まっているとなんとなくほのぼのとしてきます。私は「光の田園」でカワセミに出合うといつもバリ島のジャワショウビンのことを思い出します。

インドネシアのバリ島で出会ったジャワショウビン。くちばしが赤く、とてもきれいなカワセミの仲間です。(撮影:今森光彦)

 カワセミは真冬でも元気です。川辺に張り出した木の枝に待機していて、獲物を目ざとく見つけて狩りをします。こんな寒い冬に魚が活動しているのかと思って根気よく観察していると、オイカワやカワヨシノボリなどを見事に仕留めています。川には堰堤(えんてい)が何カ所かありますが、上流部には魚道が設けてあり、魚たちが行き来をしているようです。カワセミには上流でも出合いますが、それは湧水地やため池があるからでしょう。
 この水系の中流には崖が何カ所かあり、カワセミはそこで営巣をしているようです。冬の寂しい風景の中で出合う宝石のような鳥カワセミ。この美しい鳥が、いつまでもここに棲んでいてほしいと思います。

カワセミが電光石火の速さで水中に飛び込んで、カワヨシノボリを捕獲しました。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。