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連載

友だちか嫌われ者か 〜モグラ

第54回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 山間から冷たい風が吹くようになりました。まもなく一年が終わろうとしています。今年は夏に雨が多く、場所によっては集中豪雨になったようで、あちこちで被害がありました。「環境農家」を目指して整備している「オーレリアンの丘」の土手も、一部が崩れてショベルカーで土木工事をすることになりました。こんなことは初めてです。

冬が近づいてきた光の田園。(撮影:今森元希) 

 秋の最後の草刈りが終わり、冬の足音が聞こえるようになると、庭のあちこちに土の小山が現れます。これは、モグラが作ったモグラ塚。モグラたちは晩秋から春にかけて地下のトンネルの拡張工事をするので、余った土が地上に盛り上がるというわけです。
 モグラが庭に多くなったのは、アトリエを設けてから4〜5年目頃からだと記憶しています。土の小山に出合った時は、心から嬉しさがこみ上げてきました。モグラは地下の浅い所にたくさん穴を掘ってくれるので土が柔らかくなり、地中に酸素が供給されて肥えた土を作ってくれるのです。
 ただ残念なことに、この習性が農作物の根を傷つけたり、土手に穴を開けて田んぼに水漏れをさせる結果となったりして、農家の人には嫌われてきました。地中暮らしの姿の見えないモグラ退治には、昔から農家の人たちは苦労してきたようです。
 田んぼの土手で、カラカラと音を立てて回るペットボトル製の風車を見かけたことはありませんか? これは風車が回る音と振動によってモグラを脅かそうというものですが、この奇抜なアイデアはだれが思いついたのでしょうか。一時期はあちこちの田んぼでこの風車が元気よく回転していて賑やかでした。
 それから、秋に赤色の花を咲かせる彼岸花は球根に毒があり、これもモグラを退治するために植えられたとも言われています。

モグラ塚を見つけたら、そっと土をいただく。(撮影:今森元希)

 こんなに身近な所に暮らしているモグラなのですが、生きた姿は今まで一度しか見かけたことがありません。もう30年以上前になりますが、地面を徘徊する昆虫を生け捕るために、小型の洗面器を地表スレスレに埋めておきました。その時、トラップにかかったのが体長20センチ以上もある大きなモグラ。足を滑らせて上がれなくなったのでしょう。長い鼻に小さな目で、爪の長い前足は力がありそうでした。
 モグラの仲間にヒミズという動物がいます。ヒミズは、土中というよりは落ち葉の下を徘徊することが多いようです。モグラよりも小型です、姿はモグラにそっくりです。アトリエでは、雑木林の縁で休んでいる時、落ち葉の下からカサカサという音を耳にします。そっと接近すると、その音は少しずつ移動しています。ここぞと思って枯れ葉を取り除くのですが姿はありません。相当運動神経がいい動物のようです。ヒミズとは死んだ姿で出合うことがあります。
 ところで、私はこんもりとしたモグラ塚を見つけると、その土を集めておきます。モグラによってほどよく耕された土を利用すると、植物が根を張りやすくなるため、鉢植え用の植物の土として重宝しています。サクサクした顆粒状の土は、何にも代えがたい自然からのプレゼントなのです。

モグラにそっくりなヒミズ。地上に出てきて死んだもの。(撮影:今森元希)

モグラ塚の土は、鉢植えの植物に最適。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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