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連載

真冬のレストラン 〜センダンの木

第56回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 冬真っ盛りです。数日おきに寒波が到来し、雪が積もっては溶けてを繰り返しています。寒さにはちょっと飽きてきて、春が恋しくなるこの頃です。
 太陽の光が降り注ぐアトリエの窓の中央からは、センダンの木が見えます。窓の向こうはガーデンになっていて、一段下がったところからは田んぼが広がります。その田んぼの奥の農道脇に高さ10メートルくらいのセンダンが立っていますが、持ち主の農家の人は、なぜかこの木だけは切らないでいるのです。センダンは、古くから薬用植物として知られています。実(み)はしもやけに、樹皮は虫下しの効果があるといいますが、持ち主はきっとそのことを知っていたのでしょう。30年以上前からあったように記憶しますが、ずいぶん大きくなりました。

大木になって実をつけ、天に伸びるセンダンの木。(撮影:今森元希)

 アトリエから見えるセンダンには実がたくさんなります。落葉した後は実が花のように見えてとても美しいです。しかも、ただ美しいだけではなく、なかなかの見せ場をつくってくれます。それは、いろいろな鳥がやって来て目を楽しませてくれること。アトリエの窓からだと少し距離があるので、双眼鏡を使わねばなりませんが、入れ代わり立ち代わり飛来するお客さんを、コーヒーを飲みながら見物するのは飽きることがありません。

センダンの実を食べにやって来たムクドリ。(撮影:今森元希)

 センダンは、「光の田園」では天神川の中下流域に見られます。とくに、琵琶湖の湖岸近くはこの木のお気に入りの環境なのか、普通に自生しています。
 センダンの実は1円玉くらいの大きさで、オリーブにも似ており、房を持ち帰って花瓶に飾るとエキゾチックな空間を演出してくれます。この大きさなので、体格の良い鳥だけしか食べることができません。常連はカラスやヒヨドリなどですが、ツグミやムクドリなども群れになってやって来ます。小柄な鳥は飲み込むのが少し苦しそうです。ただ、餌が乏しいこの季節、しかも、積雪で真っ白になった原野でもセンダンの実だけは食べることができるので、鳥たちにとってなくてはならない樹木であることは確かです。

センダンの実は、まるでオリーブのようだ。(撮影:今森元希)

 ところで、センダンは、初夏に花を咲かせます。小さくて白っぽい花が集まって房になりますが、甘い蜜が出るらしく、ハナバチや甲虫などが訪れます。アゲハチョウもやって来るのでハマセンダンとよく間違われるのですが、センダンは分類的にいうとセンダン科、ハマセンダンはミカン科。姿や名前は似ていますがまったく別の種類です。ハマセンダンの方は、アゲハチョウの仲間の幼虫の食樹になります。この植物は、南方系なので、琵琶湖周辺には自生していません。
 今日も朝からセンダンの木に鳥たちが訪れています。鳥に食べられた実の中の種は、糞と一緒にどこかに落とされ、新しい命が芽生えることでしょう。

寒波が過ぎた後の光の田園の風景。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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