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連載

すっかり里山の一員 〜ヒメヒオウギズイセン

第86回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 厳しい日差しが田園を照らします。梅雨の頃は元気だったヤブマオの葉もうなだれています。近年は、温暖化のせいで夏の気温が異常に高くなり、朝夕しか田んぼの畦道(あぜみち)の散策ができなくなりました。
 でも、そんな酷暑にも負けずに花を咲かせる植物があります。その一つがヒメヒオウギズイセン。南アフリカ原産で、観賞用として日本に持ち込まれた外来種です。繁殖力が強いので野生化して、今では里山の風景に溶け込んでいる所が多くあり、滋賀県大津市仰木地区にある私のアトリエの近くでも、土手の一角に群生している様子をあちこちで見ることができます。

土手に群生し、すっかり里山の仲間になったヒメヒオウギズイセン。(撮影:今森元希)

 ヒメヒオウギズイセンは、ススキのような細い葉をいっぱい茂らせ、初夏になるとその中から長い花茎(かけい)を立たせます。花茎には二列に花芽(はなめ)がついていて、下から順番に咲いていきます。鮮やかな橙(だいだい)色の花は、夏の季節にとてもよく似合います。
 よく似た花にヒオウギという植物がありますが、こちらは在来種でアヤメに近い仲間です。ヒメヒオウギズイセンとは種子の形が全く異なりますし、アトリエ周辺には大変少ない種類です。

ヒメヒオウギズイセンの花はとても美しい。(撮影:今森元希)

 ヒメヒオウギズイセンはとても目立つ花なのですが、昆虫が飛来するイメージはあまりありませんでした。しかし、じっくりと観察していると意外と多くの昆虫たちが訪れているのがわかりました。
 その筆頭は背中が黄色いクマバチ。最近増えてきた、真っ黒な体のタイワンタケクマバチもよく訪れます。花茎が細い割にはしっかりしているので、クマバチが体重をかけて花にとまっても花穂(かすい)が傾きません。
 その他、アゲハチョウやクロアゲハ、キアゲハなどもよくやって来ます。花が下向きに咲いているので、翅(はね)を羽ばたかせて上向き加減の姿勢を保ったまま、うまく蜜を吸っています。他の種類の蝶は今のところ目撃していないので、ひょっとしたら、下向きに咲くこの花の蜜にありつけるのは、口吻(こうふん)が長い大型の蝶だけなのかもしれません

ヒメヒオウギズイセンにやって来たアゲハチョウ。(撮影:今森元希)

 夏に元気に花を咲かせる植物たちの特徴は、真夏に活動する昆虫たちの発生のタイミングと開花時期がよく合っていることです。盛夏の頃は里山にとっては花の乏しい季節でもあります。そんな中で、昆虫たちにたっぷりと蜜をご馳走してくれるヒメヒオウギズイセンには、感謝の気持ちでいっぱいです。

ヒメヒオウギズイセンが咲く頃の真夏の田んぼ。(撮影:今森元希)
  

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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