第34回 門別競馬放浪記2
前野健太(シンガーソングライター/俳優/エッセイスト)
門別競馬場にいた。年内最後の開催日。ジョッキーが全員出てきて、建物の中でファンサービス。賑やかな場内から逃げるように、男は去っていった。
その男は馬主だった。最終レースかひとつ前のレースで勝った馬の馬主だった。雰囲気のある男で、パドックを馬が周回している時から、客席で少し目立っていた。そう思っているのは自分だけだったかもしれないが、皆ダウンやジャンパーを着込んだ格好をしているのに、その男だけは、黒のロングコートで、紙袋をぶら下げていた。
のちに表彰式で、表彰されているのを見て、馬主だとわかった。その時、話しかけたいと咄嗟に思ったが、さーっと男は逃げるように建物から出ていった。少し後を追ったが、さっと車に乗り込んで競馬場から去ってしまった。門別の夜の街に行けば、どこかで飲んでるかもしれない。そう思いタクシーで宿へ向かった。
のちに表彰式で、表彰されているのを見て、馬主だとわかった。その時、話しかけたいと咄嗟に思ったが、さーっと男は逃げるように建物から出ていった。少し後を追ったが、さっと車に乗り込んで競馬場から去ってしまった。門別の夜の街に行けば、どこかで飲んでるかもしれない。そう思いタクシーで宿へ向かった。
タクシーは宿へ着いた。とりあえず荷物とギターを部屋に入れ、フロントへ。飲み屋街があるか尋ねる。坂を下ったところにあるらしいが、少し歩くとのこと。外へ出るとあたりは真っ暗闇。コンビニの明かりはあるが、街のようなものはない。少し歩くと、道の反対側に、ポツンと1軒だけ赤提灯の店が見えた。ラッキー。そこに行こう。
この時期、クマのニュースがテレビで頻繁に流れていた。タクシーの運転手も、見た人はいるみたいね、と言っていたし、少し怖い。小走りで赤提灯の方へ。ガラス戸をガラガラと開けながら、すいません、と言うが、言った瞬間、ごめんね今日は終わり、と告げられる。そのまま中も見られず、戸を閉める。宿の人は、坂を下っていけば店がある、と言っていたが、坂は暗闇。遠くに灯りのようなものも見えなくはないが、かなり距離はありそうだ。この距離を歩くのは怖い。仕方なくコンビニでつまみを買って、部屋で缶ビールを飲むことにした。朝早かったし、競馬場が寒かったしで疲れていた。次の日もたっぷり門別を回れるし、ライブは明後日だ。
この時期、クマのニュースがテレビで頻繁に流れていた。タクシーの運転手も、見た人はいるみたいね、と言っていたし、少し怖い。小走りで赤提灯の方へ。ガラス戸をガラガラと開けながら、すいません、と言うが、言った瞬間、ごめんね今日は終わり、と告げられる。そのまま中も見られず、戸を閉める。宿の人は、坂を下っていけば店がある、と言っていたが、坂は暗闇。遠くに灯りのようなものも見えなくはないが、かなり距離はありそうだ。この距離を歩くのは怖い。仕方なくコンビニでつまみを買って、部屋で缶ビールを飲むことにした。朝早かったし、競馬場が寒かったしで疲れていた。次の日もたっぷり門別を回れるし、ライブは明後日だ。
寒くて目が覚めた。電気ストーブをつけなかったのだ。北海道をなめていた。夜の暖房が苦手で、カラカラに喉が渇くので、そのまま寝ることにしたら、寒かった。夜中に目が覚めて暖房をつけた。眠れた。そして朝、9時ごろ起きた。準備をして部屋を出た。
10時21分のバスで街へ向かった
宿の前にバス停があり、そこから街を目指すことにした。バスは1日に5本。1本逃すと大変なことになる。宿を出て、バス停に行くと、1人のおばあさんがいた。どこで降りたら街が、店があるのか分からなかったので、尋ねる。新しくできた「とみくる」というところに行けば、周りに店がありますよ、と優しく教えてくれる。助かる。バスが来た。礼を伝え、バスに乗り込む。乗客は1人。ヘッドホンをした若い兄ちゃん。昨日は暗くてよく分からなかったが、坂は大きく蛇行し、山道を下って行く。そして店が見えてきた。駅はないが、たしかに街のように店がいくつかある。さーっと車窓から入れそうな店を探すが、喫茶店らしきものはなさそうだ。ひとつかふたつ目で「とみくる」についた。
「とみくる」は真新しい施設だった。できたばかりのバスの発着場だった。バスターミナル。目の前にはホームセンターやスーパーがあり、食べ物には困らなそうだ。ただ、喫茶店でコーヒーが飲みたい。とみくるに入っていき、町役場の窓口のようなものがあったので、そこの人に尋ねた。すると、係の人が親身になって相談に乗ってくれた。施設内にコーヒーを飲めるところはあるけど、喫茶店がいいんですよね、と。そうなんです、店がいいんです。係の人は同僚に聞き始めた。3人くらいが輪になって話し始めた。やりすぎたかなと思ったが後には引けない。どうやら喫茶店はあるらしいが、少し離れているようだ。歩くと4、50分以上はかかるらしい。そこで最初の受付の人が、「すこバス」というのを勧めてくれた。町が運営しているコミュニティバス、乗合タクシーのようなもので、登録すれば県外の人でも使えるという。こんな旅の者でもよいのでしょうか。ええ、もちろん大丈夫です、というやり取りののち、紙をもらい説明を受ける。電話をすると30分ほどでミニバンが来た。スポットがあるところなら、町内、どこまで乗っても500円で行けるという。これはほんとに助かった。とみくるの人たちに礼を伝え、旅が一気に旅らしくなったことに喜びを感じ、ミニバンに乗り込む。
「とみくる」は真新しい施設だった。できたばかりのバスの発着場だった。バスターミナル。目の前にはホームセンターやスーパーがあり、食べ物には困らなそうだ。ただ、喫茶店でコーヒーが飲みたい。とみくるに入っていき、町役場の窓口のようなものがあったので、そこの人に尋ねた。すると、係の人が親身になって相談に乗ってくれた。施設内にコーヒーを飲めるところはあるけど、喫茶店がいいんですよね、と。そうなんです、店がいいんです。係の人は同僚に聞き始めた。3人くらいが輪になって話し始めた。やりすぎたかなと思ったが後には引けない。どうやら喫茶店はあるらしいが、少し離れているようだ。歩くと4、50分以上はかかるらしい。そこで最初の受付の人が、「すこバス」というのを勧めてくれた。町が運営しているコミュニティバス、乗合タクシーのようなもので、登録すれば県外の人でも使えるという。こんな旅の者でもよいのでしょうか。ええ、もちろん大丈夫です、というやり取りののち、紙をもらい説明を受ける。電話をすると30分ほどでミニバンが来た。スポットがあるところなら、町内、どこまで乗っても500円で行けるという。これはほんとに助かった。とみくるの人たちに礼を伝え、旅が一気に旅らしくなったことに喜びを感じ、ミニバンに乗り込む。

旅の拠点となった「とみくる」
教えてもらった店の名前を告げ、車は走り始めた。運転手さん、と言っていいのか、ドライバーさんと話すと、中高生の通学や、自家用車を持っていない人の買い物、お年寄りの通院など、需要はかなりあるようだ。バスの本数が減り、鉄道が縮小するなか、これからさらに、こういうものは必要になってくるだろう。ただ、ドライバーさんは兼業で、仕事の合間にこれをやっている、と言っていた。運転手不足でうまく回っていないらしい。どこもかしこも、マンパワーが足りない。ぶらぶら旅をしている身として、申し訳ない気持ちになってくる。
川を渡り橋を越え、ゆるやかな坂を登って行くと、お店があった。ありがたい。礼を伝え店に入った。
店内は少しガーリーチックかなと思い、一瞬身構えた。婦人たちが早めのランチと、デザートを食べていた。俺は入っていいのだろうか。大丈夫だろう。いや、ここを出てももう行くところがない。カウンターの端に座り、メニューを眺める。がっつり洋食セットもある。モーニングコーヒーと思っていたが、時間ももう昼前になっていた。ハンバーグランチとコーヒーを頼んだ。
川を渡り橋を越え、ゆるやかな坂を登って行くと、お店があった。ありがたい。礼を伝え店に入った。
店内は少しガーリーチックかなと思い、一瞬身構えた。婦人たちが早めのランチと、デザートを食べていた。俺は入っていいのだろうか。大丈夫だろう。いや、ここを出てももう行くところがない。カウンターの端に座り、メニューを眺める。がっつり洋食セットもある。モーニングコーヒーと思っていたが、時間ももう昼前になっていた。ハンバーグランチとコーヒーを頼んだ。
すこバス。これがなかったら旅は小さくなっていた
食事が来るまでメニューをまた眺めた。搾りたての牛乳、というのがあった。そう、北海道にいるのだ。これを頼まないでどうする。コーヒーのお供に、これもあとで頼もう。
たらふく食べ、ようやくコーヒーにありつき、牛乳も頼んだ。店内には自転車競技のトロフィーやメダルがたくさん飾られていた。あとで店の方と話すと、息子さんのものだという。入り口付近にCDも売られていたので、それとコーヒー豆を買わせてもらった。誰のCDか分からなかったが、ご当地のCDを買うのは好きだ。レジでお会計をしていると、サインしますか? と聞かれた。はてな、と思ったが、それはどうやら娘さんの作品らしい。あ、じゃあぜひ、お願いします、と言うと、奥から娘さんが現れて、お名前入れますか? とチャキチャキサインをしてくれた。いや、名前はいいので日付をお願いします、と伝えた。いい記念になった。
たらふく食べ、ようやくコーヒーにありつき、牛乳も頼んだ。店内には自転車競技のトロフィーやメダルがたくさん飾られていた。あとで店の方と話すと、息子さんのものだという。入り口付近にCDも売られていたので、それとコーヒー豆を買わせてもらった。誰のCDか分からなかったが、ご当地のCDを買うのは好きだ。レジでお会計をしていると、サインしますか? と聞かれた。はてな、と思ったが、それはどうやら娘さんの作品らしい。あ、じゃあぜひ、お願いします、と言うと、奥から娘さんが現れて、お名前入れますか? とチャキチャキサインをしてくれた。いや、名前はいいので日付をお願いします、と伝えた。いい記念になった。
店を出て、すこバスを待った。次の目的地は近くにある温泉施設。店の中で、次はどうしようと考え、そこに行くことに決めた。宿でもらった簡単な観光地図には、もう行くところはそこくらいしかなかったのだ。すこバスに電話をすると、スポットがあるので行けるという。助かった。
温泉施設は広々としていた。ロビーに、懐かしいゲーム機があった。じゃんけんぽん、ずこ、というゲームだ。周りには誰もいない。1回だけやってみた。負けた。それから「うまレター」のバックナンバーが大量に置いてあった。大好きな冊子だ。施設の中の色々なものが馬にちなんだもので、ああ、ここは馬産地、日高なのだ、としみじみ思った。馬のセールのポスターまである。周りには牧場がたくさんあるだろう。牧場で馬を見たい。レンタカーがないと厳しいだろうか。ここまで来て、馬を眺めないわけにはいかない。湯に浸かりながら、冷たい秋風に吹かれた。
馬に会いたくなってきた