電力市場クライシス~昨冬の価格高騰から、電力取引市場の仕組みと不備を分析(前編)
竹村英明(市民電力連絡会理事長)
新電力とひと口に言っても、すべての新電力がJEPX市場で電力を調達しているわけではない。例えば再生可能エネルギー(以下「再エネ」)の電力を供給している新電力(以下「再エネ新電力」)の多くは、JEPXを全く使っていないか、使っていても依存度は低い。なぜなら、自社で建設した太陽光発電や、契約している再エネ発電事業者から電力を調達しているからだ。ところが、今回の市場価格高騰は、これらの再エネ新電力に大きな損害を与えた。その原因は、FIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)と、これを補完するためにつくられた「FIT特定卸供給」という制度にある。
FIT制度は、再エネ発電事業を国が支え、推進するために2012年に始まった制度で、再エネ発電所の電気を一定期間、一定価格(FIT価格)で、JEPXを通さずに買い取る仕組みである。市場価格より高い価格で長期間買い取るので、再エネ発電事業の安定性が確保でき、投資を呼び込みやすくなる。FIT電気(FIT制度で取り引きされる電力)の買い手は小売事業者である。2015年度までは旧一電(小売り部門)がほぼ一手に買い取っていたが、2016年度からは新電力も買い取ることになった。
しかし、FIT制度は再エネ発電事業者にとっては補助となる制度だが、実際に資金を拠出して「高く買い取る」小売事業者には一時的に経済的な負担を強いる制度でもある。
FIT価格と市場価格との差額は、費用負担調整機関(GIO)が小売事業者に補填する(原資は消費者から徴収した「再エネ賦課金」で、GIOがこれをプールしている)。ただしGIO からの入金は、小売事業者が支払いを済ませてから2カ月近く後になり、小売事業者はその間、FIT価格との差額を負担し続けることになる。2カ月分も負担し続けるにはそれなりの資金力が必要で、旧一電には可能でも、新電力には荷が重すぎた。
そこで政府は、主に新電力の負担を軽くするために、2017年度に「FIT特定卸供給」制度をつくった。別名「送配電買取」ともいう。小売事業者は再エネ発電所と契約を結び、FIT電気を仕入れる期間や量を定める。ただし、買い取りは送配電事業者(送配電)が肩代わりする。契約分の電力は、小売事業者が所定の引き渡し価格を送配電に支払うことで、小売事業者に引き渡される。結果、小売事業者は割高なFIT価格を負担しなくても済むようになる、というのがFIT特定卸供給制度である。ただし引き渡し価格は、市場価格と同額にすると決められた(「市場価格連動制」)。
新電力の負担を軽くする目的の「FIT特定卸供給」だが、昨冬の市場価格高騰では、全くJEPXを使ってこなかった再エネ新電力までもが、FIT電気仕入れのために、市場価格高騰の影響を真正面から受けることになった。
市場価格が通常通りの価格であれば、小売事業者はFIT価格の負担に耐えることなく安全にFIT電気を調達できる。しかし、今回のように市場価格が高騰すれば、小売事業者が大損し、送配電事業者のみが莫大な利益を得る仕組みだったのである(図3)。結果として、多くの再エネ新電力は、今回の価格高騰に何の責任もないにもかかわらず、大きな損失を余儀なくされた。
この制度では、市場価格がFIT価格を大幅に上回ることなど全く想定されていなかったのだと思われる。その予見性のなさも問題ではあるが、制度の欠陥がこうして明らかになっても、監督官庁である経産省は間違いを認めようとせず、制度改正にも手をつけていない。これは行政の不作為と指弾されても仕方ないのではないだろうか。
図3 FIT特定卸供給の理不尽

制作:グリーンピープルズパワー
新電力の責任を検証する②「再エネ新電力」以外の新電力
では、JEPXで実際に電気を調達していた新電力には高騰の責任があるのだろうか。我先にと高値で買い入札をして、結果的に251円/kWhまで価格を押し上げたのだから自己責任との批判も多かった。
ここからは最大の問題、なぜこれほどの「売り切れ」が発生したかを検証する。
JEPX市場は旧一電の電力が供給されることによって成り立っている。日頃は旧一電が2億kWh程度の電力を実質売り入札することで取り引きが行われているが、2020年12月26日、旧一電はその2億kWh分の出荷をまるまる停止したのだ。2021年1月25日まで、ほぼ一カ月間は、この旧一電による「売り惜しみ」の状態が続いた。(図4)

図4 1カ月間の売り入札削減
その結果、この時のJEPX市場は電力が「品薄」となって売り切れ状態が多発し、7割程度の新電力しか約定できなかった。電力不足は買い手の責任ではないが、それでも電力が買えなければ、購入予定分が丸ごとインバランスになる仕組みだ。しかもインバランス料金は市場価格がベースになるので、価格が高騰すればインバランス料金も跳ね上がる。このため、大量のインバランスの発生は、新電力側の仕入れコストをますます押し上げた。
新電力はそもそも、JEPX市場に電力があることを信じて買いに来ているのであり、そこに売り物を並べていないのは市場管理者のミスである。まず市場管理者の責任を問うべきであり、市場を信じた客である新電力に責任を転嫁するのはおかしい。そのような市場は信頼されなくなり、やがて誰にも使われなくなる。
JEPX市場を使う新電力も、電力価格をつりあげた一面はあるが、JEPX市場の不備によって生み出された電力不足に振り回されたあげく、罰金のようなインバランス料金に苦しめられた側である。再エネ新電力を含め、ほとんどの新電力は被害者であるとわかるだろう。
後編では、JEPX市場の何が不備なのか解き明かしてみよう。
著者情報
市民電力連絡会理事長
竹村英明
たけむら ひであき
1951年広島生まれ。国会議員秘書や国際環境保護団体グリーンピースジャパンスタッフなどを経て、環境エネルギー政策研究所、飯田市での地域エネルギー事業、エナジーグリーンでの環境価値取引事業の後、2014年に市民電力連絡会を設立。2015年、再エネ発電の「イージーパワー」設立、代表取締役に。17年、電力小売の「グリーンピープルズパワー」設立、代表取締役に。ブログは「竹村英明のあきらめない!」。