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「日本版DBS」導入から考える 子どもの性被害を防ぐために必要なこと

寺町東子(弁護士)

(構成・文/仲藤里美)

 それから、付帯決議の5項にもあるように、対象犯罪の範囲についても再検討が必要です。現状、過去の性犯罪が検察によって「裁判所に起訴はしない」と決定された「不起訴事案」だった場合には、「犯罪事実確認」の対象にならないとされています。しかし、この「不起訴事案」にもいくつか種類があるのです。
「嫌疑なし」「嫌疑不十分」による不起訴であれば、それぞれ犯罪を立証するだけの証拠がない、不十分ということですから、対象にするべきではありませんが、問題は「起訴猶予」だった場合です。これは、加害者自身も加害行為を認めていて、ただ被害者との間で示談が成立したから起訴されなかった、というケースが大半を占めます。加害があったことは確かなのですから、対象に含めるべきではないか? と思います。
 また、同じく付帯決議の5項は「特定性犯罪」の範囲拡大についても触れています。具体的には「下着窃盗、ストーカー行為やこどもに重大な影響を与える性暴力と解される行為」も特定性犯罪に含めることを検討せよ、とあるのですが、これらが本当により重大な性犯罪につながっていく可能性が高いのかどうかは、専門家によっても意見が分かれるところです。5項や14項にあるように、性犯罪の再犯や余罪にどのような傾向があるのかについての調査や研究、また小児性愛(小児対象性犯罪)を含めた「性嗜好障害」の治療に関するデータの蓄積なども、早急に進めていくべきだと思います。

 あとは、「犯罪事実確認」の対象となる期間もさらに検討が必要だと考えます。現行法では、拘禁刑を受けていた場合は刑の終了から20年(執行猶予がついた場合は裁判の確定日から10年)、罰金刑以下は10年以下となっており、それ以上さかのぼっての犯罪については照会ができないことになっています。
 過去の性犯罪のデータから、再犯に至る可能性が高い期間を考慮して定めたとされていますが、先にも触れた認知行動療法の知見からいえば、こうした犯罪は「時間が経ったからやらなくなる」というものではありません。アルコール依存症の人が、何年も禁酒していたのにほんの一口お酒を口にしただけで元に戻ってしまうのと同じで、何年経っていてもトリガーに触れることで急に再犯に至ってしまう可能性がある。常にそのことを認識しながら、なんとかそうならないように日々を 積み重ねていくことが大事だと考えられているのです。
 そう考えると、10年、20年という期限で区切ってしまっていいのだろうか? という疑問はあります。裁判の判決は50年は保管されることになっているのですから、少なくともその間、50年は対象期間としてもいいのではないでしょうか。

社会全体で子どもを守っていくために

 もちろん、最初にお話ししたように、DBSはあくまで子どもへの性犯罪を防ぐための施策の「ほんの一部」でしかありません。たとえば、包括的な性教育をもっと充実させていくことなども、絶対に必要だと思います。
 子どもへの性暴力は、いまだに「いたずら」といった言葉で矮小化されがちです。また加害者にも、子どものほうも性的な行為を「喜んでいた」と思い込むなどの認知の歪みが見受けられることが多い。適切な性教育を通じて、未発達な子どもに対して大人が性的な行為を行うことが後々まで子どものトラウマになるのだということ、大人と子どもという「対等性のない関係における性的同意」は有効な同意とはいえないこと、そして「子どもは性的に守られなくてはならない存在だ」ということを、もっともっと「社会の常識」にしていかなくてはならないと思います。
 その上で、社会全体で子どもを守っていくために、DBSについてもより実効性の高いものにしていく必要があることは言うまでもありません。施行までまだ2年半ありますから、早急に制度の見直しを重ねていってほしいと考えています。

 

著者情報

弁護士

寺町東子

てらまち とうこ

1968年生まれ。弁護士・社会福祉士・保育士。子どもの権利の実現と性暴力の根絶に取り組む。共著に『保育・教育施設における事故予防の実践:事故データベースを活かした環境改善』(中央法規出版)など。性被害当事者団体「一般社団法人Spring」の理事も務める。

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