トランプ政権時代に求められるこれからの日米外交(2)
トランプ政権時代に求められるこれからの日米外交(1)からの続き
トランプ大統領で米軍基地問題はどうなる?
中島 トランプさんといえば「在日米軍の基地駐留費を日本が全額負担しろ」みたいな発言でもみんな揺れているわけですが、そのあたり、猿田さんはどう見ていらっしゃいますか。
猿田 一般的な「どうなる論」でいうと、今、申し上げたように日米外交をずっと司ってきた人たちというのは、トランプさんに「既存の日米外交の路線に戻ってくれ」ということを全力で働きかけている。それが今の日米外交のすべてで、日本の総理大臣が真っ先にトランプさんに会いにいっちゃうというのは、まさにその象徴ですよね。
中島 うん、そうですよね。
猿田 ところが、それに対してトランプさんは日本なんて、全然関心がないわけです。トランプさんが、日本の問題にすごいエネルギーを掛けて取り組むとは到底思えない。しかも、自分の政権のグループの中に、知日派として日本のことをよく知っている人も全然いない。そういう状況を考えると、結局は今の状況がこのまま続くのかなという感じがしています。
中島 要するにトランプさんは、日本のことは放置状態というか、今までどおりになると……。
猿田 そうですね。ただ、駐留経費の日本側の負担増加を彼が求めてくる可能性はあります。そして、安倍さんはおそらくノーと言えない……。とはいえ、全額を負担できるかというと、財務省は「そんなお財布はないよ」と言うんじゃないかなと思うんです。そうすると結局、「全額は支払えませんが、ちょっとだけ増やします……」みたいなことになるのかもしれません(笑)。
中島 今、日本側の駐留経費負担は7割でしたっけ?
猿田 7割5分ぐらいとされています。それを、8割払いますとか、9割ならがんばりますとかいうような話になるかなと思うんです。それでトランプさんが「何!? 全額、払えないのか!」と言うと、今の既存の外交を担っている人たちが、「いや、とは言っても、あそこに基地があることは、アメリカのためにもなるんですよ」とか、いろいろ説得に入って、結果、あんまり変わらない。
もうひとつの可能性としてあるのは、日本にもっと自分の国の防衛をやらせて、その名目の下、日本の防衛予算を増やしなさいという圧力が掛かって、予算が増えるということは、あるかもしれません。
トランプ大統領誕生は「自立のチャンス」?
中島 ただ、トランプさんが大統領になって、確かにビックリではあるけれども、一方でこれを何がしか、ちょっと日本が自立するチャンスだと捉えている方も、いらっしゃるかなと思うんですが、その辺は猿田さんとしてはどう思われますか?
猿田 トランプショック後の反応を見ると、基本的にはどの新聞も「安倍首相がトランプさんに会いに行って、信頼関係を最初に築けたのは良し」みたいな感じです。リベラル紙の代表である朝日新聞ですら日米の同盟関係についての問題意識を感じさせる指摘はない。取りあえずはまず「日米外交の既定路線」に戻ってもらうほうがいいという論調が強いですよね。「この機会に、日本は何をすべきか?」とか「日本はこういうふうに考えたいと思っているので、アメリカに提案をしてみよう」というのは、ほとんどなくて、唯一あるのが、産経新聞。
中島 えっ、産経新聞?
猿田 産経新聞はみごとで、選挙翌日の紙面で、一面の左側に東京本社編集局長名で大きな記事をバーンと載せていた。タイトルは「トランプ大統領で、いいじゃないか」。そこでは「トランプになったんだから、これから日本は自衛隊の装備を大増強してちゃんと自分で自分の国を守っていかなきゃいけない。お隣の国がどうであろうと、自分たちは自分でがんばろう」と主張していたんですね。まぁ、その産経新聞も、その後、安倍さんがトランプタワーに選挙後すぐ飛んで行った面談について、「安倍トランプ会談 同盟の有用性を確認せよ」「緊密な日米同盟は、両国のみならず世界の安全と繁栄にとっての礎である」とか書き始めてるから、結局、元に戻っているんですけれども……。それでも、大統領選挙の直後に何か提案ができていたのって、産経新聞ぐらいなんです。
中島 すごいですね。
猿田 産経新聞の、日本の軍事力をもっともっと強化していきましょうという提案に私は賛成しません。現実的に考えても米軍が今、日本に供給している軍事力と同じものを日本が提供できるわけがない。それで中国や北朝鮮に対峙することも不可能なので、あんまりいい方法ではないと思います。ただ、少なくとも彼らは「提案」をしている。
トランプ大統領の誕生という「ショック」に対して日本が自分の国の安全保障や外交を考えるときに、これまでの完全な「対米従属」以外に自分の国の国益を追求する方法がないのか、一歩、立ちどまって考える機会にしませんかというのが、私のひとつ目の提案です。
それは、本来は日本政府がやるべきなんです。 ところが今、日本政府の指針というのは、とにかくトランプさんをこっちに振り向かせることだけですよね。
中島 そうですね。
猿田 ですから、今までTPPに反対してきた方とか、沖縄の辺野古の基地建設に反対してきた方とかは、今まさにこのタイミングで「日本政府、アメリカに対してこれを言えよ!」というような運動を、もっとしなくちゃいけないと思います。
「中国・韓国」近隣の国々との対話がもつ可能性
猿田 ちなみに、中島さんは今、日本はどういうふうにすべきだと思いますか。
中島 そうですね、小説家として、どういうお話ができるのかというのは、ちょっとわかんないですけども、実は私、近隣の中国であるとか、韓国であるとか、台湾であるとか、アジアの国の作家と友だちになる機会が結構あるんですね。作家なので、そういう外交的なことはもちろん話さないんですが、お互いに近い国で、文化的にも近かったりするので、もっと話し合える余地があると思うんです。
だから、外交ということを考えたときに、あまりにアメリカにばっかり向いているせいで上手に対話できていない近隣諸国というのはあって、そこはもっと上手に対話をすれば、解決できる問題がいろいろあるんじゃないかな? っていうのは、彼らと友だちになった実感としてはあるんですね。
猿田 そういう、小説家の方々の繋がりというのは、日中間でもあるんですか。
中島 日中間とか、韓国とか、割と交流をする機会が多いんですよ。そうすると、ほんとに意外なほど、感覚も似ているし、あと、みんな日本のことをよく知っている。アメリカ人も友だち、結構いっぱいいるんですけども、アメリカ人で日本のことを、よく知っている人というのは、あんまりいないですよね。でも、中国とか、韓国とかの人だと、日本のことをすごくよく知っています。だから、そういう意味でも、何かを話すベースみたいなのがあるので、そこはもっと大事にできるし、したほうがいいんじゃないかなと思います。
猿田 おっしゃるようなつながりというのは、ほんとにすごく重要だし、私もそれがたぶん、外交の一番の基盤になっているんだろうと思うんです。特に韓国、中国の場合、何よりもお互いを知って、いろいろ交流をしていくことが大切なわけで、小説家どうしがそのように交流するというのは、すごくいい市民外交の方法だと思います。
日中関係って、経済的にものすごく深くつながっていて、切っても切れないですから、戦争が起こる可能性は少ない。
中国の外交官や元外交官と、今の日中関係について語り合う機会がしばしばあるのですが、やはり皆さん、日本のことを本当によく知っているんですよ。
中島 そうなんですよね。
猿田 アメリカで日本政治のことをよく知っていることになっている知日派の人々よりも、中国に何人もいる日本のことを研究している研究者だとか、別に日本への大使でもない別の国の大使だった人と話しても、彼らの方が圧倒的に日本に関する知識が多いし、深いし、理解をしようという好奇心もあると感じます。
それに、ごくごく例外を除けばアメリカの知日派は、日本語も話せないわけです。でも、中国の知日派の多くは、日本語が驚くほどぺらぺらですからね……このギャップ!
それなのに、日本の新聞は、場合によっては「自分のメインの専門は、アフガニスタンなんですけど、ちょっと日本もやっています」という人たちまで「アメリカの知日派」とか書いてしまう。その程度の「知日派」しかいないアメリカにベッタリで、日本のことを考えている人がこれだけいる中国を軽視しているのはもったいない。
中島 そうですね。日本は報道が偏るのか、やっぱり中国の人とか、韓国の人とか、日本のことを怒っていたりするんじゃないかなという感じがするじゃないですか。でも、会って、話したりすると、意外にそうでもないんですよね。
それも、ただただ、親しく思っているという訳じゃなく、いろんなことをわかっているんですよ。「日本の人は、こういう経緯があるから、こういうことを言えないんでしょ」とか、それこそ「アメリカの圧力があるからね」とか、いろんなことを知っている。だから、そういうような感情を持ってくれているあいだに、関係を良くしてほしいなと思いますね。
「小さいおうち」に描かれた「戦争の足音」
著者情報
作家
中島京子
なかじま きょうこ
1964年生まれ。女性誌編集者を経て、2003年、田山花袋の『蒲団』を下敷きにした小説『FUTON』でデビュー。10年、『小さいおうち』で直木賞を受賞。14年には同作が山田洋次監督により映画化された。同年、『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花賞を受賞。著書に『彼女に関する十二章』、『長いお別れ』、『かたづの!』ほか多数。
新外交イニシアティブ代表
猿田佐世
さるた さよ
1977年生まれ。早稲田大学法学部卒業。国際人道支援NGO活動などを経て、2002年に弁護士登録。08年、米コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。09年、ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。著書に『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社クリエイティブ、2016年)などがある。