imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

国際

「台湾有事」で想定された核戦争と沖縄の危機 米極秘報告書が鳴らす警鐘

布施祐仁(ジャーナリスト)

 日本では、1954年の「ビキニ事件」(アメリカが太平洋・ビキニ環礁付近で行った水爆実験で、日本のマグロ漁船の乗組員などが死の灰を浴びて被ばくした事件)を機に、反核世論が高揚していた。1957年に首相となった岸信介も、米軍の日本への核兵器の持ち込みに対しては、国民感情をふまえて要請があっても拒否すると明言していた。

 米軍も、日本の反核世論の強さは理解していた。核兵器の使用を含む前出の作戦計画「OPS PLAN 25-58」も、在日米軍基地は使用できないという前提で策定されていた。

 日本をはじめ世界中から強い反発を招くかもしれないが、それでも核兵器の使用を躊躇すべきではないというのが、統合参謀本部の多数意見だった。しかし、アイゼンハワー大統領が中国本土に対する核攻撃の必要性を認めることはなかった。

 結局、中国が行ったのは砲撃だけだった。砲撃によって金門島への補給線を遮断し、封鎖を試みたのである。これに対し、米軍は9月上旬から、台湾本島から金門島への補給を行う台湾軍の輸送船の護衛を開始した。護衛中の米軍艦艇に対する中国軍による攻撃が心配されたが、中国軍艦艇が米軍艦艇に攻撃を仕掛けることはなかった。金門島に対する砲撃は10月初旬まで続いたが、侵攻することは最後までなかった。中国側は、アメリカとの戦争は望んでいなかったのである。

 アイゼンハワー大統領が、この中国の意図を読み違えなかったことが、核戦争に至らなかった最大の要因であったと思われる。逆に、読み違えていたら、核戦争になっていたかもしれない。

台湾海峡危機について話し合われた米中大使級会談。1958年9月、ワルシャワにて。

 

最初の核攻撃計画は沖縄から

 今回のニューヨーク・タイムズの報道を受けて、日本では、アメリカの中国本土への核攻撃の結果、沖縄が核で報復されるリスクを米軍が容認していたという事実が共通して報じられた。この点はもちろん重要ではあるが、もう一つ、どこのメディアも取り上げていない重大な事実がある。

 それは、沖縄が核で報復攻撃を受ける前に、沖縄から核攻撃が行われる計画があったことである。

 前出の米空軍報告書(「1958年台湾危機の航空作戦」)によると、米太平洋空軍の当初の作戦計画では、中国沿岸部の航空基地への最初の核攻撃は沖縄の嘉手納基地とフィリピンのクラーク基地から発進する計画であった。

 前述の通り、米軍は核攻撃作戦に在日米軍基地は使用できない前提で計画を策定していたが、当時の沖縄は日本本土と切り離されて米軍の占領下に置かれており、中国本土に対する核攻撃の発進基地として利用しようとしていた。

 だからこそ、共産主義陣営との全面戦争に発展した場合、沖縄に対する核による報復攻撃は避けられないと見ていたのだろう。

 

「第三の被爆」は甘受できない

 1958年の台湾有事では、米軍は通常兵器で数的優位に立つ中国に勝利するためには核兵器を使用する以外の選択肢はないと考えていた。

 戦力の面で、また基地や兵站などの作戦インフラの面で、中国側に数的優位があるという状況は現在も変わらない(これは、地理的な理由からどうしようもない)。今後、台湾有事が発生し、米軍が通常兵器による戦争で劣勢になった場合、核兵器使用の誘惑にかられることは十分あり得ることである。

 日本は「非核三原則」(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)を国是としているが、核兵器を搭載した米軍の艦船や航空機が日本に一時的に立ち寄ることは、1960年に結んだいわゆる「核密約」で認めており、核攻撃の発進基地として在日米軍基地が利用される可能性は否定できない。そうなれば、当然、核による報復を受けることになるだろう。

 米軍は1958年の時と同じように、「台湾を防衛するために、その結果は受け入れなければならない」と主張するかもしれない。しかし、日本にとっては、広島と長崎に続く「第三の被爆」は甘受できるものではない。 

 中国は今後も、台湾の独立派に対する軍事的牽制を続けると思われるが、1958年の時と同じく、アメリカとの戦争は回避しようとするだろう。しかし、双方の軍事的牽制の応酬で緊張が高まれば、偶発的な衝突が起きたり、相手側の意図の読み違えによって全面的な戦争へとエスカレートすることもあり得る。

 日本も戦火に巻き込まれる可能性が高く、「日本からの核攻撃」や「日本への核攻撃」という最悪の結果を招きかねない台湾有事は、絶対に起こしてはならない。「米中対立」が激化する今こそ、1958年の台湾海峡危機が鳴らす警鐘に耳を傾ける時である。

著者情報

ジャーナリスト

布施祐仁

ふせ ゆうじん

1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

関連記事