imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

国際

中国の少数民族はいかに漢族とまじわってきたか――習近平が目指す「中華民族復興」の実像 安田峰俊(紀実作家)×会田大輔(中国史研究者)

安田峰俊(紀実作家)

会田大輔(中国史研究者)

諸民族が中国文化を受け入れていく「中国化」

安田 中国の少数民族が多く住む場所は、一部の例外はあるとはいえ、基本的に辺境が多い。現在の中華人民共和国の領域は広大なのですが、往年の明朝(1368~1644年)の末期の勢力範囲くらいの地域が漢族の伝統的な居住地域です。そこから外れていくほど、少数民族が多くなります。

会田 中国も古い時代には、河南(黄河中流域)とか湖北(長江中流域)とか、中央部にもいろんな民族がいました。ところが、南北朝~隋~唐の王朝に仕える過程で、漢族の文化を身につけた方が、出世しやすくて、生き延びやすいために、中国本土の諸民族は、少しずつ「中国化」していったんです。もちろん、これは仕方なく「中国化」せざるを得なかったという面もあります。いずれにしろ、中国で歴史的に構築されてきた文化を、他の民族が受け入れて、自分のものにしていった。たとえば、遊牧民によって南北朝時代の北朝ができるわけですが、彼らは遊牧民としてのアイデンティティを持ちつつも、中国文化も受け入れていく。その後、中国が統一されていく隋~唐の過程で、徐々に中国文化を中核に据えるようになりました。

安田 「中国文化」の定義は難しいのですが、三皇五帝(中国古代の伝説上の皇帝)以来の天命を受けた皇帝のような人が官僚制とともに君臨する国のシステムだとか、父系の親族認識だとか、その秩序を維持する儒教だとか、漢字を用いた意思伝達だとか、かつその漢字をいかに美しい筆跡、文章で記すかの強いこだわりだとか……。それらもろもろをまとめた「何か」ですよね。
 逆にいうとそれらを踏まえていれば、担い手たちのルーツが必ずしも漢族ではなくても、本来は海外由来の勢力であっても(たとえば中国共産党もそうなのですが)なんとかなる(笑)。あと、それら以外の部分は柔軟なので、食や言語の発音・語彙なんかに非漢民族的な要素が加わることには、意外とおおらかだったりもします。

会田 そうですね。私が「漢(民族)化」ではなく、「中国化」というのも、そうした柔軟なところがあったからです。漢族による歴代王朝でも、漢族への同化政策というだけではなく、西方や遊牧民の文化も受け入れてきました。

 

民族の記憶は忘却される

安田 中国の場合、体制が安定していないときには、非漢民族的な要素の受け入れに寛容になる傾向もありますね。中国共産党も、建国の過程では非漢民族からかなり助けられています。1934年から、国民党軍による征討を受けた中国共産党勢力(紅軍)が、江西省(中国南部)から陝西(せんせい)省(西北部)延安まで長距離の逃避(長征)をおこなっているのですが、この際に紅軍を助けたのが「回民」、いまでいう回族の人たちでした。また、大戦後に内モンゴルで自治政権を組織していたモンゴル人共産主義者のウランフが、中国共産党への合流を決めたことも非常に大きい。
 なので、初期の共産党政権は少数民族に対して、彼らなりに「配慮」しようとした形跡もあって、特にモンゴル族や回族は大事にしているんですよね。ウランフもその後、国家副主席になっています。ただ、体制が安定してくると、そういう配慮は忘れられていく。漢族を国家・国民のスタンダードとして当然視するような考えが強まっていきます。

会田 歴代王朝でも、困ったときに助けてもらった民族がいたとしても、それを歴史書としてまとめるにあたっては、その功績が過小評価されたり、省略されたりします。そうやって、中国の王朝は諸民族の歴史を忘却してきたんだと思います。唐を支配していた鮮卑(せんぴ)の人たちも、先祖の遊牧民のアイデンティティよりも漢族としてのアイデンティティに重きをおいていました。また中国文化を代表する唐代の詩人、白居易(はくきょい)や元稹(げんしん)も先祖は漢族ではないし、李白もバクトリア人だったという説があります。

安田 現在、中国の幼児が李白や白居易の詩を暗唱している動画をTikTokで多くみかけますが、ここでの彼らは「中華民族の偉大な文化」の担い手という位置づけ。彼らが元々は非漢民族的なルーツを持つ人だということは、ほぼ忘却されていますね。

会田 そもそも、南北朝を統一した隋やそれにかわった唐の皇帝たちは、もとをたどるとおそらく遊牧民系の可能性が高い人たちなんです。彼らも南北朝末期にのし上がってくる過程で、中国文化を身につけ、漢族として振る舞うようになりました。

安田 現代でも同じような現象がみられますね。たとえば、中国を代表するスポーツアパレルメーカー「リーニン」の創業者・李寧(リーニン)は、実は広義のタイ系とされるチワン族の出身。しかし、彼は普段は完全に中国語を喋っていて、少数民族的な要素はほとんど示さない。もちろん、戸籍上の「民族籍」はどのような地位になっても残ります。ただ、対外的にアイデンティティを示すことにこだわらない人にとっては、歴史的に続いてきた「中国文化」というブランドを身にまとうことが成功モデルになっています。

 

著者情報

紀実作家

安田峰俊

やすだ みねとし

1982年、滋賀県生まれ。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。朝日新聞論壇委員。『八九六四』(KADOKAWA)で2018年に第5回城山三郎賞、2019年に第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。他に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『さいはての中国』(小学館)、『性と欲望の中国』(文春新書)、『「低度」外国人材』 (角川書店)、『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)、『戦狼中国の対日工作』(文春新書)、『恐竜大陸 中国』(角川新書)など著書多数。

中国史研究者

会田大輔

あいだ だいすけ

1981年、東京都出身。2013年、明治大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、現在、明治大学・東洋大学・山梨大学等非常勤講師。専攻は中国史(南北朝隋唐史)。第35回東方学会賞受賞。著書に『南北朝時代――五胡十六国から隋の統一まで』(中公新書)がある。

関連記事