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中国の少数民族はいかに漢族とまじわってきたか――習近平が目指す「中華民族復興」の実像 安田峰俊(紀実作家)×会田大輔(中国史研究者)

安田峰俊(紀実作家)

会田大輔(中国史研究者)

「野蛮」とみなされる少数民族

会田 一方で、モンゴル高原の突厥(とっけつ)やウイグルなど、中国化しようとしなかった強い遊牧民たちもいます。また、北宋時代(960~1127年)、契丹(きったん)という遊牧民の契丹国と漢族の北宋は、対等な外交関係を持っていました。しかも軍事力では契丹が優位にたっていたため、北宋は契丹に銀や絹を贈ってご機嫌をとっていたんです。けれども、北宋国内では「契丹は野蛮人だ」と見下していたんです。少数民族に対するそうした感覚は、現代にも通じているんじゃないでしょうか。

安田 現在でも、都市部の若くて真面目な中国共産党員が、「遅れた地域に文明を伝えにいく」といって、チベットに中国語を教えにいっていますからね。本人は間違いなく“いいこと”をやっているつもりで(笑)。現在の中国当局は、「少数民族を大事にしている」というプロパガンダを繰り返していますが、ある意味で当事者たちは本気でそれを信じています。
 ただ、ここでいう「大事に」というのは、オリンピックなどの大イベントで少数民族に民族衣装を着て踊らせることだったり、彼らの居住地域にビルを建てたり中国語を普及させてあげたりして“経済発展”をもたらすことだったりする。新疆でウイグル族の伝統住居やモスクを破壊して、かわりに漢族のゼネコンが建てたマンションに住まわせるのは、漢族の目線からすると間違いなく“いいこと”。それなのに抵抗して蜂起するウイグル族は“恩知らず”ということになります。
 でも現代の国際的な人権感覚からすれば、少数民族が日常で伝統的な信仰や生活習慣を維持して暮らして、自分たちの言葉で話して社会生活を送れて、結婚して子供を産んで生活が送れる状況というのが、マイノリティの権利の尊重というものですよね。

会田 「人はパンのみにて生きるにあらず」っていう言葉がありますけど、そういうことに対する理解がないですよね……。

 

「同化政策」が進む中国で失われているもの

安田 中華人民共和国の初期は、ソ連モデルの社会主義国家としての意識が高かったことで、すくなくとも理念のうえでは「民族の平等」が重視されていました。ゆえに、「大漢族主義」を含む個々の民族主義も、基本的には否定されるべきものでした。文化大革命期の混乱後、80年代にも、少数民族への配慮がある程度は復活した時期があります。
 ところが90年代以降、中国の世論において社会主義への信頼が決定的に揺らぐと、当局は経済発展と中華民族のナショナリズムを強調することで自国をまとめようとし始める。これは結果的には“成功”するわけですが、いっぽうで関心が低下したのが「民族の平等」の視点です。とりわけ「中華民族の偉大なる復興」を強調する習近平政権の場合、「中華民族」は実質的には漢族とほぼイコールなので、結果的には漢族への同化政策としてあらわれてしまっています。

会田 いま、内モンゴルとかでは学校の授業をモンゴル語ではなく中国語でおこなうなど、言語弾圧ともいえるようなひどい状況になっていますね。

安田 食文化の面においても不穏な動きがあります。中国の大学にある清真(せいしん)食堂(回族などムスリムの少数民族向けにハラル食を提供する食堂)が、最近「民族食堂」に名前を変えられて、店内からアラビア語などのイスラム要素をすべて消される動きが出ています。清真料理は、広東料理とか上海料理のような「地域」の料理ジャンルとしては今後も存在し続けるはずですが、その背後にある思想や伝統についての目配りは弱まっています。

会田 言語や文化は、一旦忘れられると、復活することはほぼできません。だからこそしっかり伝えていかなきゃいけないのですが、いまの中国ではなかなか厳しいですね。

安田 ある国が強くなっていくときに、権力の主導のもとでマイノリティに対する同化政策がとられるのは、歴史上しばしばあることです。20世紀前半までのアメリカやオーストラリアはもちろん、日本でも往年のアイヌや沖縄に対する政策はひどい。ただ、その結果として先進諸国には「過去のアレはまずかった」という認識がすでに成立している。
 いっぽう中国の場合、ちょうどいまが“同化政策”フェイズなんです。西側諸国はその動きにグロテスクさを感じて引いてしまうわけですが、中国側はこれに対して「過去のお前たちと同じことをやっているだけなのに、中国の動きだけ批判されるのは、西側諸国が中国の発展を邪魔したい陰謀をこらしているからだ」みたいなひねくれた解釈をしてしまう。結果、問題は解決しません。

会田 たしかに、かつて欧米列強や日本がやってきたことだという理屈はあります。ただ、現代は民族意識が高まっていて、もうそんな理屈が通用する時代ではないのではないかと思います。チベット族とかウイグル族のように中華世界とは違うアイデンティティを持っている民族に対して、いまの中国政府のように漢族の歴史的な意識を押し通すのは無理ではないでしょうか。

安田 いまではウイグル族に限らず、回族も中国から脱出し始めています。

会田 前近代の王朝では、中央の官僚を目指す人たちは中国化するという動きがある一方で、現在の山西省(中国北部)北部とか甘粛省(中国北西部)のあたりで遊牧生活を送っている人たちに対しては、部族長だけ管理下において、自由にさせておくというやり方もとっていました。つまり、さまざまな民族を内包できる柔軟さを持っていたんです。ところが、いまの中国政府は、そうした価値観がほぼなくて、漢族への同化路線になってしまっています。これはいまの中国の民族を考えるときに、歴史的に断絶しているところだと思います。

安田 習近平政権の影響というのは、非常に大きいですね。すでにお話ししましたが、現代の中国は実質的には、国内の各民族・地域の個性を標準化して、「中華民族=漢民族」に単一化しようとしていると感じます。いちど進んだ動きはもとに戻せませんし、仮に将来的に中国の体制がもう少しリベラルに変わったとしても、失ったものの回復は簡単ではないことでしょう。

著者情報

紀実作家

安田峰俊

やすだ みねとし

1982年、滋賀県生まれ。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。朝日新聞論壇委員。『八九六四』(KADOKAWA)で2018年に第5回城山三郎賞、2019年に第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。他に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『さいはての中国』(小学館)、『性と欲望の中国』(文春新書)、『「低度」外国人材』 (角川書店)、『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)、『戦狼中国の対日工作』(文春新書)、『恐竜大陸 中国』(角川新書)など著書多数。

中国史研究者

会田大輔

あいだ だいすけ

1981年、東京都出身。2013年、明治大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、現在、明治大学・東洋大学・山梨大学等非常勤講師。専攻は中国史(南北朝隋唐史)。第35回東方学会賞受賞。著書に『南北朝時代――五胡十六国から隋の統一まで』(中公新書)がある。

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