「8050問題」を取材したジャーナリストに聞く!「中高年ひきこもり」当事者と家族たちの苦悩と再生
黒川祥子(ノンフィクションライター)
(構成・文/小長光哲郎)
本書にも登場していただいた、ひきこもりや不登校の当事者・家族支援をしているNPO法人「遊悠楽舎」の明石紀久男さんによると、「80世代」やその下の「70世代」のお母さんたちは、子どもを手放せないのだと言います。子どもは子どものままでいてほしい。自分に甘えてきてほしい。その結果、母親が子どもを手放せない。本書にはひきこもりの51歳の男性のお母さんが、その「気づき」に至る過程も書きました。そのお母さんは理解したんです。あらゆる世話を焼くことで、自分が息子を「手放さないようにしていた」のかもしれないと。
一方で、子どもへの無関心、というケースもあります。子どもを認めない。尊重しない。子どもの中身を見ようとない。私は現在、再びひきこもりの人のための居場所で働いていますが、やはりそういう親に苦しめられている人たちにたくさん出会います。たとえば、いつも親の都合で、「幸せ家族」を演じるためだけに引っ張り回されるが、自分の都合を犠牲にしてそれに付き合ったところで感謝の言葉一つかけてもらえないという人。親に認められようと一生懸命、頑張って頑張って……、そして折れてしまう人もいました。
子育てをしている人たちへ
では、ひきこもりのケースに限らず、いま子育てをしている人たちが、子との間に良好な親子関係を築くためには、どんなことを心掛ければいいのでしょう? そこで、子育て中のみなさんにひとつ、私から贈りたい言葉があります。先述の明石さんが大切にしているという、医師の故・中村哲さんの言葉、「今、何ができるかではなく、今、何をしてはいけないかを知ること」です。
本書で取材した7つの家族の親たちは、まさに子にとって「してはいけない」ことばかりをしていました。子の自主性を奪い、子の意思を無視する。「この子のために」と言い、「いい大学に入れてやりたい」と猛勉強を強いたり、「心配だから」と子の人生を管理したりしようとする。これらはすべて、親が「自分のため」にしていること。本当に子の立場に立って考える、ということが、結構、親はできないものなんです。でもそれを心掛けることが必要です。何かをしてやりたい、というエゴを抑えて、子が何を望んでいるのかを考えてみてください。
「50世代」は怠けているのか?
世間の人たちが8050問題についていちばん誤解しているなと思うことは、「怠けているだけでしょ」という50世代への批判。そこはもう、決定的に間違いです。
本書に登場する7人の当事者たちは、最初から楽をしようとしていたわけでも怠けていたわけでもありません。すごく頑張って頑張ったんだけれども、「家族の関係性の中でがんじがらめになって、動けなくなった」人たちなのです。そのことをぜひ、理解してほしいと思います。
また、ひきこもりからの自立、イコール就労すること、という考え方も誤解です。50代まで社会と接点を持てずにいた人たちに、いきなりバリバリ働けと言っても無理です。たとえば、30歳手前からひきこもりを余儀なくされた45歳の女性は、「いきなり正社員登用を目指すとなっていたら、壊れます」と言っています。その人の状況に合わせてちょっとずつちょっとずつ、変化していくのを支えることが大切です。
母が支配する家庭で教育的、心理的な虐待を受けて育ち、大卒・就職後にうつを発症した56歳の男性も、「働かない」という思想で生きてきたのではなく、働こうとするたびに突き崩されてきたのだと語ってくれました。ひきこもりの彼らも、やはり働くこと、誰かの役に立つこと、誰かに喜んでもらえることをしたいんです。ただその術も、場もない。働けるようになるまで待ってくれる環境も少ない。そんな彼らに、「自己責任でひきこもって怠けてきたんだから、働けるだけありがたいと思え」などと言うのではなく、まずは彼らの居場所を作ることから始めて、少しずつ頑張る姿を見守っていけるような社会であってほしいですね。
この本はあくまでも、7つの家族の物語=生きたドラマです。8050問題を網羅した解説本でも、解決のノウハウを示した専門書でもありません。それぞれの人生をまずそのまま見ていただくことが、ノンフィクションとしては重要なのではないかと思っています。ひきこもりになった原因、家族のかたち、どんな葛藤を抱いているのか、これからどんな人生を歩もうとしているのか……それぞれのひきこもり当事者やその家族たちは、わずかな共通点はあっても、みんなまったく違いました。「8050問題」という言葉で一括りにせず、自分の家族によってもたらされる困難と、一人一人がどう向き合ってきたかを知っていただければ嬉しいです。
また、本書は「再生の物語」でもあります。私はとりわけ「50世代」に向けてのメッセージを込めました。もう若くないからといってあきらめないで、いまここからでも再生を始めてほしい。自分の人生をどう生きたかったのかを考え、自分の本当の人生を生きてほしい。この本がその助けになれればいいと心から願っています。

『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』
◆書籍刊行記念の集中連載、黒川祥子『「8050問題」のいま』(全5回)はこちら!
著者情報
ノンフィクションライター
黒川祥子
くろかわ しょうこ
1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。