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社会問題

大阪市立小学校、「現場から市長に向けて声をあげた校長先生」の奮闘~公教育のあるべき姿を問い続ける

映画『教育と愛国』にも出演した久保敬校長へのインタビュー

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 筆者は公正を期すために、東北大学教授の任にある大森顧問に以下の質問状を送ったが、現在に至るまで何の返信も無かった。

1)2021年6月29日に行われた総合教育会議の会議録を拝見するに大森さんは明らかに久保校長(当時)の提言を曲げておられます。さらに大森さんは各校園長に向けて教育長の名前で出す文書に対し、3度に渡る添削指導を行っていることが確認されています。市の特別顧問の大森さんが、ここまで大阪市教育行政に関与するのは明らかな私物化、政治介入ではないかという批判に対してどう思われますか。

2)情報開示請求で出て来たメールにつきまして。同年8月27日に大森さんが、川本総務部長に送られたメールには朝日新聞報道を気にされ、「事情が変わった」として、川本総務部長に反論文書を市教委HPに目立つようにアップするようにとの指示がなされていました。先述の通り、教育委員会は市長から独立した執行機関であるはずです。市教委からの助言を受けての回答ではなく、マスコミへの対応を自ら積極的に指示を出すことは、実態はご自身が意思決定権限を持っておられるということでしょうか。

3)かようにリサーチをし、仙台より大阪の市教委に広報戦略を指示するという行為は今後も続けられるのでしょうか。

4)各校園長に向けて出された通達書により、久保さんは「逸脱行為を行った無責任な校長」と一方的に流布されました。久保さんは、そのことに対して人権侵害救済申立てをされていますが、通達書は大森特別顧問による監修で作成されたものです。流布させた当事者として人権侵害をしたことにたいする受け止めをお聞かせ下さい。

5)市長の補助機関である特別顧問は市教委の職員に直接指示や命令はできないとなっていますが、2021年8月11日の松浦令課長へのメールにはこれ以上は無駄なので、「教育長、市長へ協議し相談する」という文言が見られました。明らかに市長を自身の後ろ盾にしていることを強調し、自身に従わせようと見受けられます。市教委に対してかような言い回しはこれまでも使われてこられたのでしょうか。

6)大森さんご自身、これまで学校現場で小中学生に授業を行われた経験はおありでしょうか。

 下記は大森顧問が推進する中学校対抗内申点争奪戦とも言える「チャレンジテスト個人戦」について、市教委職員に対して動きが遅いと吉村知事の名前を出して叱責しているものである。これらのメールから、大森顧問は自らも国立大学の教授という身でありながら、片方で同じ教師の自治、発言を管理し、さらには処罰させていたことが分かる。教育の自治、裁量権を教授自らが否定する行為である。東北大学はこれをどう見るのか。

情報公開請求により公開された、大森不二雄特別顧問から大阪市教育委員会の教育政策担当課長に宛てたメールの一部

現職教師と子どもたちのために

 本来、指示権限の無いはずの特別顧問による監修で(それをはね返せず唯々諾々と従っている市教委職員も情けないが)作成された通達書により、「逸脱行為を行った無責任な校長」と一方的に流布された事実もまた、久保が人権侵害救済申立てをする背中を押した。
「合格通知」を受け取ったままにせず、後進のために立ち上がった久保は、今その現職の教師と子どもたちに対する憂慮を隠せずにいる。

久保「僕が教師になった1985年頃は、もっと子どもたちに向き合う時間がありました。今は、学習指導要領の中身だけじゃなくて、『何ができるようになるか』みたいな、到達目標までが決められている。全国学力テストの学校別正答率の公表や学力経年テストの実施が始まって競争が激化しています。テストの点を上げるために市教委から送られてくる過去の問題をやらなくてはいけない。確かに過去の問題をやればテストの点数は上がりますが、それがほんまの学力や考える能力に繋がるでしょうか。ただでさえ時間がない中で、それをやるために学校行事や体験的な活動を潰したりしなくてはならない。テスト勉強に時間を取られ、学校行事を行う余剰時間を捻出するのも難しくなっているのが、現状です。学習がしんどい子は、もう置き去りになっていく。
 そうしたくないから、先生らはいろいろ工夫して、一生懸命、教材研究もしています。でも、ほんまに今、もう、人が足りなくて、過労から病気で休んでいく新任の先生や、『やっぱり務まらへん』となって辞めていく先生も多い。代わりの講師の人もいてなくて、今いてる先生が働き方改革どころじゃないことになって、結局、そのしわ寄せは子どもたちにも行くわけです。もうちょっと、社会が今の教育の問題をしっかり分かってくれて、単に先生が頼りないとか、さぼっているとかじゃないと理解してほしいです。『一律これだけのことを学習指導要領でやったらいい』という施策があっても、それをインプットしてやっていく学校の状況がそれぞれ違うし、子どもだって違う。そういうことがわかっていないと思いますね。
 だから、堤未果さんが『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書、2021年)で書かれていたのですが、竹中平蔵さんが、究極は『一人の優秀な教師』がいて、その人が『オンライン授業』するのが『教育の平等』みたいなことを言われるのを読むと、ほんまに僕は怒り心頭なんです。ひとりひとりに向き合ってくれる教師がいなくて、“配信”。それでついていけない子どもは自己責任で切り捨てられていくなんて、公教育においておかしいですよ」

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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