imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

サイエンス

ネイチャー・テクノロジーとは自然に学ぶものづくり

自然の完璧な循環の中にヒントはあった!

石田秀輝(東北大学大学院環境科学研究科教授)

(構成・文/山田久美)

 ここまで、さまざまなバイオミメティクスの技術を紹介してきた。とはいえ、私は単に自然のメカニズムを模倣するだけでは、地球温暖化防止や環境負荷低減は不十分だと考えている。世の中には省エネ家電などエコ商材が溢れているにもかかわらず、この数年で家庭のエネルギー消費量は増えており、環境負荷は逆に上がっている。その理由は、エコ商材が消費の免罪符になっていることや、エコ商材が最適に使われていないことなどが挙げられる。
 そもそも、地球環境の劣化の根本原因は、人間の際限のない物欲と、それを支えるテクノロジーの肥大化にある。それが、資源・エネルギーの枯渇、生物多様性の危機、温暖化に代表される気候変動、水や食料の偏在、人口増大などというリスクを生み出した。この人間活動の肥大化を、我慢を強いることなく、生きることを楽しみながらも、いかに縮小させられるか。これこそが地球環境問題の大命題であり、その解が、今求められている新しいテクノロジーの形である。
 そこで、“物欲”をあおるテクノロジーから、自然の完璧な循環を基盤とし、“精神欲”をあおるテクノロジーへと移行する手段として、私が提唱しているのが、「ネイチャー・テクノロジー」である。
 ネイチャー・テクノロジーとは、「自然に学ぶものづくり」を指すが、単なるバイオミメティクスではない。最も小さなエネルギーで、完璧な循環を作り上げている自然のメカニズムを手本とし、最適にデザインし直されたテクノロジーである。
 生物は利己的でありながら、完璧な循環を見事に両立させている。つまり、ネイチャー・テクノロジーとは、自然の循環のように持続可能で、なおかつ豊かな暮らしを実現できるこれからのものづくりのあり方であり、価値観のパラダイムシフトを求める概念なのだ。その点で、バイオミメティクスはネイチャー・テクノロジーの一部として捉えることができるだろう。
 しかも、ネイチャー・テクノロジーの基盤は日本にある。自然を人間の下に置き、自然を支配しようとしてきた欧米の近代テクノロジーの思想とは異なり、日本では昔から自然を崇め、自然と和合して生きることを楽しんできたからだ。
 これからの時代に求められるネイチャー・テクノロジー。2012年7月からは、文部科学省の新学術領域研究として「生物多様性を規範とする革新的材料技術」が設置され、ネイチャー・テクノロジーに関する国を挙げた組織的な研究が本格始動している。このプロジェクトでは、今後5年間で、バイオミメティクスに関するデータベースを構築するとともに、生物学と工学の両方に精通した人材の育成を目指している。近い将来、ネイチャー・テクノロジーは、エネルギー・環境問題の解決に寄与するパラダイムシフトをもたらすことになるだろう。

著者情報

東北大学大学院環境科学研究科教授

石田秀輝

いしだ ひでき

1953年生まれ。工学博士。78年、伊奈製陶株式会社(現・株式会社LIXIL)に入社。基礎研究所所長、空間デザイン研究所所長、取締役技術統括部長(CTO)などを務める。97年に「人と地球を考えた新しいものづくり」を提唱、「ネイチャー・テクノロジー」の研究・啓発活動を行ってきた。2004年より現職。著書に『地球が教える奇跡の技術』(10年、祥伝社)など、監修に『ヤモリの指から不思議なテープ』(11年、アリス館)など多数。

関連記事