病原体媒介マダニとの攻防
葛西真治(国立感染症研究所 昆虫医科学部第三室 室長)
国立感染症研究所昆虫医科学部では、マダニによる被害を防ぐために、パンフレット「マダニ対策、今できること」をホームページ上で公開しています(http://www.niid.go.jp/niid/images/ent/PDF/madanitaisaku20131105.pdf)。そこでは、マダニから身を守るために、野山を歩くときには長袖長ズボンを着用すること、シャツの袖口やズボンのすそを手袋や靴下の中に入れること、そして屋外活動後はマダニが体に付いていないかを確かめるためにシャワーや入浴をすることを勧めています。
また、蚊やアブ同様に、虫よけ剤はマダニにも効果があることがわかっていますので、靴やズボンに使用することで、足元から上ってくるのを防ぐことが期待されます。衣服に付いてしまったマダニは粘着テープなどを使うと効率よく除去することができます。
昆虫ではないマダニですが、有機リン系やピレスロイド系の殺虫剤に効果があることもわかっており、殺虫剤によっては草地に散布してから1カ月以上、マダニの密度を低く抑え続けることが私たちの調査でわかっています。
おわりに
まだまだわからないことが多いマダニの世界ですが、近年増加傾向にあるマダニ媒介性疾患について一つだけ言えることは、最近マダニとヒトとの距離がどんどん縮まっているということです。農村の過疎化が進み里山が荒廃してきたり、マタギの高齢化によってシカやイノシシの密度が適切に管理されなくなってきたりした結果、野生動物の生息域が広がり、人間の生活圏に重なりつつあります。
一方、地球温暖化によってイノシシのように寒さに弱い野生動物の生息地が北上しつつあり、それにともなって、やはりマダニの分布域が変化してきています。このような環境の変化はマダニによってもたらされる病原体とヒトとの距離も縮め、予期せぬかたちで影響を及ぼしてきています。しかし、大切なのは先にも述べたように、決して過剰に反応するのではなく、マダニによってもたらされる感染症を理解し、正しく恐れ、対応していくことです。私たち研究者も、このように近くなってしまったマダニと今後どう付き合っていくべきか、日々研究を続けているところです。
著者情報
国立感染症研究所 昆虫医科学部第三室 室長
葛西真治
かさい しんじ
1970年生まれ。筑波大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士。アメリカ・コーネル大学博士研究員を経て2000年から国立感染症研究所研究員となり、主任研究官を経てコーネル大学客員研究員を務めたのち、現職。蚊、ハエ、ゴキブリ、シラミのように病気を媒介する衛生害虫の防除対策や、殺虫剤抵抗性分子機構の解明と抵抗性のモニタリング、殺虫剤の新規作用点の探索などを研究。著書に『分子昆虫学 ポストゲノムの昆虫研究』(共著、共立出版、2009年)、『招かれない虫たちの話』(共著、東海大学出版部、2017年)などがある。