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新劇場開場ラッシュ! 外食産業化する演劇

演劇グルメをうならせる成功の条件とは?

鈴木国男(共立女子大学文芸学部教授)

 2007年秋から、都心とその周辺はちょっとした新劇場建設ラッシュ。建設される劇場の規模もさまざまだが、既存の劇場を巻き込み、公演の奪い合いで競争はますます激しくなると思われる。どうしたら新劇場運営は成功するのだろうか。

世界に類を見ない演劇都市

 このところ首都圏での新劇場開場が相次いでいる。2007年9月「あうるすぽっと」(豊島区舞台芸術センター・301席)、10月「アルテリオ小劇場」(川崎市アートセンター・195席)に続き、09年3月に杉並区立高円寺会館を改築して誕生する予定の「杉並芸術会館」の「座・高円寺」など公立系の小劇場もあれば、日比谷の旧東宝本社ビルの跡地に、07年11月オープンした「シアタークリエ」や、TBS放送センターに隣接して作られた複合施設、赤坂サカス(Akasaka Sacas)内に新装開場したばかりの「赤坂ACTシアター」も話題を呼んでいる。すでに劇場や公演数の上で、世界に類を見ない演劇都市ともいえる東京では、熾烈な競争が展開されている。不安定な社会経済状況の下で、必ずしも拡大を期待できない観客のパイを奪い合い、互いに消耗する結果も危惧される。そういった状況下において、新劇場が成功する鍵は何だろうか。

演劇興行は外食産業?

 限られた空間に多くの人的資源を集約し、多大なランニングコストを要しながら、日々作られては消えてゆく、いわば「生もの」の商品を供給し続けることで成り立っているという点で、演劇興行は外食産業と似通っている。料理(作品)のオリジナリティーとコストパフォーマンス、素材(キャスト)の質と新鮮さ、シェフ(演出家・スタッフ)の腕と知名度、そして顧客というターゲットを念頭においたマーケティングが必要である。
 ロケーションが重要なポイントとなるのはいうまでもないが、交通の便の良い所ほどコストは高く、所有と賃貸が一長一短であるのも同様である。
 公共施設はコスト面で有利ではあるが、一方でコンセプトやメニューの制限につながり、経営効率の問題と裏腹であるのは、あらゆる公共事業の例にもれない。しかし、文化事業が利潤追求のみをめざすものではない以上、公立劇場の増加と運営の成熟は歓迎すべきであろう。その成功は、結局オーナーである市民の意識にかかっているのである。

演劇グルメ情報の使命

 だが、都市文化の原動力が民間活力にあることは間違いない。自腹を切ってうまいものを食べたいという人々の欲求が食文化を育てるように、面白い芝居を観るためにプラチナチケットを求めるエネルギーをどうやって取り込むかに、劇場は鎬(しのぎ)を削るのである。そのためには情報発信が不可欠である。「ミシュラン」の重要性は、一定の店に星を与えることだけではない。むしろそのことによって食に関する議論を活性化させたことにある。演劇ジャーナリズムも本来はそうでなければならないはずだ。そして、様々なメディアを通じた演劇グルメ情報も増大の一途をたどる。そうして潜在的な新規の観客を開拓し、リピーターを増やして「数カ月先まで予約で一杯」の状況を作り出さねばならないのだ。

「シアタークリエ」の戦略

 日比谷の「シアタークリエ」を例に取ってみよう。立地条件は申し分ない。ロビーなどの空間は決して広くないが、地下でつながった隣の日比谷シャンテビルや周辺地域は、全体としてホテル・劇場・映画館・飲食街という複合施設とみなすこともできよう。東宝という老舗のノウハウに若い女性マネジャーの感性の相乗効果も見込める。前身である芸術座を設立した菊田一夫の「緊密な空間で質の高い演劇を」というコンセプトは受け継がれているし、こけら落とし公演「恐れを知らぬ川上音二郎一座」には、勇気をもって新しい演劇の創造(クリエはクリエーションからきている)に取り組むというメッセージも感じ取れた。作・演出の三谷幸喜は現代を代表する劇作家の一人であり、チケットはたちまち完売となり、作品は高い評価を得た。続く08年1~3月は、まさに菊田芸術座最高の遺産といえる森光子主演「放浪記」、4~6月はウィーンの人気ミュージカル「エリザベート」ミヒャエル・クンツェシルヴェスター・リーバイのコンビによるミュージカル「レベッカ」、以後ひと月単位で特色ある公演が並び、11~12月のミュージカル「RENT」で最初の1年を締めくくる。まずは見事なメニューであるが、約600席という経営的には最も難しいとされる規模で、芸術座時代の女性客中心の文芸路線から、より広範な観客層をターゲットとして、ミュージカルや多彩なキャスティングでのラインアップを組めば、大劇場並みの最高1万3500円という料金設定もギリギリのところであろう。劇場側にしても、観客にとっても、日々満席というエネルギーをどこまで維持できるかが勝負である。

未知の領域における模索

 実のところ、演劇は21世紀に入り、未知の領域に突入したのである。外食産業におけるチェーン展開のような効率化があるとすれば、劇団四季の試みるロングランがそれにあたるだろうが、それにもおのずと限界がある。演劇もまたメディアの世界における情報の一つに過ぎなくなり、マスコミやインターネットの影響力が日々増大している。そこで取り上げられることが死活問題となっているのだ。それは必然の流れではあるが、本当にうまい店は、定番メニューやシェフのおまかせのみで効率的に経営し、宣伝しなくても客が集まるという真実は、演劇にもあてはまるだろう。

著者情報

共立女子大学文芸学部教授

鈴木国男

すずき くにお

東京大学文学部卒。同大学院博士課程中退。ローマ大学演劇研究所に留学。イタリア演劇専攻。日本演劇学会理事・イタリア学会会員・歌舞伎学会会員。

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