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宝塚歌劇団の100年戦略

95周年!日本最長劇団はどこに向かうのか

鈴木国男(共立女子大学文芸学部教授)

 世界的な不況下、日本の演劇業界も影響を受け、座席料金値下げに踏み切る劇団も出てきた。しかし宝塚歌劇団は、年間公演数を増やし、座席料金をあげるなど対照的な動きをみせている。また次世代のスター育成に失敗したとも言われているが、果たして宝塚歌劇団は無事100周年を迎えられるのか。

世界に類を見ない劇団

 宝塚歌劇団は、1914年の第1回公演から2009年で95年の歳月を重ね、記念すべき100周年も視野に入ってきた。日本における近代的な劇団組織としては、文学座の72年、劇団四季の56年を上回る最長の歴史を誇るばかりか、欧米では劇団の必須条件とされる、専用劇場(宝塚大劇場東京宝塚劇場宝塚バウホール)、専属スタッフ、養成所(宝塚音楽学校)、そして強力な観客組織を完備し、現代日本演劇界に確固たる存在感を示している。
 そもそもは、阪急東宝グループの創始者である小林一三が、阪急電車の終点である宝塚に作ったレクリエーション施設の集客のため、少女歌劇を発案したことに始まる。鉄道、沿線開発、ターミナルデパート、ホテルから映画、演劇に広がる小林の事業展開は、「中産階級」「家庭」「女性」をキーワードに、大正・昭和期の市民社会にマッチして拡大し、新しい生活文化を創出した。宝塚歌劇は、財政的には阪急の強力なバックアップを受けながら、グループの象徴としての役割を長く果たすとともに、世界に類を見ないユニークな演劇として市民権を得、数々の作品と優れた人材を生み出してきた。
 だが、平成に入り、阪急の事業全体が新しい局面を迎えたことも事実である。長年のライバルであった阪神との経営統合はその象徴的な出来事といえよう。苦境に立つデパート業界にあって屈指の優良経営を続ける阪急百貨店も、阪神百貨店そして高島屋と統合し、大阪梅田の旗艦店を新築して生き残りを図ろうとしている。阪神タイガースとともにエンターテインメント事業の柱となった宝塚歌劇団は、グループ全体の収益を支える「孝行娘」であることが期待されている。

宝塚のシステム

 周知のように、歌劇団の舞台に立つ演技者は、宝塚音楽学校(予科・本科の2年制)を卒業した女性に限られる。劇団は研究科として学校教育の延長と位置づけられ、したがって役者・俳優ではなく「生徒」と呼ばれる劇団員は、入団すると研究科1年(研1と略する)となり、以後研2、研3と年次を重ねていく。そこには厳格な規律と上下関係があり、華やかな芸能の世界であると同時に、経営者・指導者に守られた修練の場であり、小林一三によって掲げられた「朗らかに、清く正しく美しく」の教えは、教育の理念を示すと同時に、健全で心を豊かにする娯楽を、広く社会に提供するという決意の表れでもある。
 現在、歌劇団を構成するのは、花組月組雪組星組宙組(そらぐみ)という五つの組(ユニット)であり、その他に技量に優れたベテランの生徒が所属し、随時各組に出演する「専科」がある。それぞれの組には主演男役・主演娘役が定められ、このコンビを中心に、ミュージカルプレイやレビューなど多彩な演目を上演する。男性の理想像を昇華させたものともいえる男役の洗練された演技に妙味があることは当然だが、娘役との息のあったデュエットや整然としたアンサンブル、確かな歌唱力は、一つの様式のもとに長年の研鑽(けんさん)を積んで初めて得られるものであり、独特の華やかな美術や舞台機構など伝統によって形作られた空間に夢の世界を織り成し、見るものの心を惹きつけてやまない。

伝統を守るマンパワー

 その伝統を守り、未来につなぐものは何といっても「人」である。毎年40~50人が入団し、ほぼ同数が退団することによって活性化が図られ、「男役10年」といわれる長い努力と切磋琢磨の中でスター級の人材が育っていく。「組」はファンにとっても公演を通してカラーの違いを楽しみ、生徒の成長を見守る場であるが、そのバランスを取るために生徒を移動させる「組替え」が近年頻繁に行われている。主演クラスの移動と交代のサイクルの速さにファンは戸惑いを感じている。「孝行」に励むあまり生徒が疲弊し、5年先の100周年を託せる人材が枯渇していくのではないかとの懸念もある。舞台に厚みを加える専科が在団35年以上のベテランに偏っているのも気がかりである。
 また、作品の脚本・演出は専属の作家によって担われているから、その人材も重要である。題材の選定・企画も含めて、ファンが安心して舞台の魅力に浸れるような質の高い作品を常に提供できる陣容が、果たしてそろっているといえるだろうか。

100周年に向かって

 そうしたなか、2009年からは宝塚大劇場・東京宝塚劇場の興行スケジュールを見直し、年間8公演を10公演に増やした。その結果、各組が2回ずつ、ほぼ1カ月の公演を東西で行うこととなり、同時に座席料金の値上げも実施した。厳しい経済状況であればこそ、観客は夢を求めて高い料金を払い何度でも劇場に足を運び続けることになるのだろうか。その切実な願いに応えるためにも、100周年に向けて、歌劇団は経営陣を筆頭にマンパワーを結集した文字通りの総力戦に突入したといえるのではないだろうか。

著者情報

共立女子大学文芸学部教授

鈴木国男

すずき くにお

東京大学文学部卒。同大学院博士課程中退。ローマ大学演劇研究所に留学。イタリア演劇専攻。日本演劇学会理事・イタリア学会会員・歌舞伎学会会員。

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