『鬼滅の刃』を読む~この残酷な世界の中で誰もが鬼にならずにすむように
杉田俊介(批評家)
私は以前、ある若い人から、人生なんてクソゲーで、残機一機でリプレイ不可、ガチャに失敗(親ガチャとか学校ガチャとか)してもリセマラ禁止――という表現で自分の人生を語るのを聞いたことがありますが、思えば、『鬼滅の刃』の上弦の鬼たちとの戦いは、おおむねそんな感じがします。ステージごとに攻略方法が違うレイドバトルだけど、悉くクソゲーである、というか。もしかしたらそれは、やはり、クソゲーとしての現代というリアルを写し取っているのかもしれません。
上記太字部分注:ちなみに、クソゲーとは「クソみたいなゲーム」のことで、そもそもプレイの仕様や難易度が「クソ」なゲームを指します。ゲームはそれを購入したプレイヤーにやりやすいように、あるいはフェアに設定されているべきだが、「人生はクソゲー」とは、この現実はクソゲーのような理不尽な仕様でできている、というような意味合いです。また、ガチャとはスマホ用のソーシャルゲームなどで、アイテムやキャラクターを抽選で取得・購入する仕組みのことで、リセマラ(リセットマラソン)とは、ガチャの結果があまりよくなかった場合、ゲーム自体を何度もリセットやアンインストールして、よい結果を引けるまでやり直す、という行為のことです。
こうした残酷で容赦のない世界、それに対するある種の諦念、しかし諦念を超えようとする努力、情熱、何も与えないのにすべてを取り立てようとする世界への怒り、それらすべてにもかかわらず残り続ける人間に対するぎりぎりの信頼のようなもの。そうした世界観(思想)をその根底に持っていることが『鬼滅の刃』という作品の大きな魅力になり、若い人や子どもたちの心の深いところへも届いているのではないか。
そんなことを考えながら、引き続き、『鬼滅の刃』を熟読していこうと思います。
著者情報
批評家
杉田俊介
すぎた しゅんすけ
1975年生まれ。法政大学大学院人文科学研究科修士課程修了。自らのフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行するなど、ロスジェネ論壇に関わった。元障害者ヘルパー。文芸誌・思想誌などさまざまな媒体で文学、アニメ、マンガなどの批評活動を展開。著書に『宮崎駿論』(NHKブックス)、『長渕剛論』(毎日新聞出版)、『非モテの品格』(集英社新書)、『安彦良和の戦争と平和』(中公新書ラクレ)、『ドラえもん論』(Pヴァイン)、『橋川文三とその浪漫』(河出書房新社)、『男がつらい!』(ワニブックス「PLUS」新書)などがある。