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一語千金

デプレッション(恐慌)

[depression]
深刻な経済の「スランプ」

玉手義朗(エコノミスト)

「また、三振だ…。スランプじゃないのかな?」「いや、ちょっと調子を落としているだけで、すぐにヒット打ち出すよ」
 ヒットを打って当たり前のイチローだが、時には凡打が続くこともある。こんな時、すぐに打ち始めるだろうという楽観的な見方がある一方で、不振が長期化する可能性が指摘される場合もある。短期的な好不調の波なのか、長いスランプの入り口なのかは、見極めが付きにくいものだ。
 景気にも同じようなことが言える。景気の悪化を表す言葉でもっとも一般的なのが「リセッション」(recession)で、「景気後退」や「不況」などと訳されることが多い。だが、さらに状況が悪化すると「デプレッション」(depression)という言葉が使われることがある。「恐慌」と訳されることもある言葉だ。
 リセッションとデプレッションの違いは、その深刻さの度合いにある。明確な定義はないが、アメリカでは、経済成長率が2四半期連続してマイナスになった場合を「リセッション」と呼ぶことが一般的で、これは珍しいことではない。経済は好況と不況を繰り返している。したがって、2期連続でマイナス成長になるのは、イチローが2試合連続でノーヒットになったようなもので、好不調の小さな波と考えられるのだ。
 しかし、経済は時として深く長い不景気に落ち込むことがある。これがデプレッションだ。「2けたのマイナス成長」「2年以上のマイナス成長の継続」など、リセッション同様にその定義は必ずしも明確ではなく、感覚的なものだ。イチローが3カ月もノーヒットで、空振り三振ばかりなら、デプレッションというわけだ。  
 歴史上もっともよく知られているのが1929年10月24日のニューヨーク株式市場の大暴落、いわゆる「暗黒の木曜日」に始まった経済危機だ。その深刻さから「大恐慌」(great depression)と呼ばれた未曽有の不景気はアメリカ、そして全世界を覆っていった。
 しかし、バブル崩壊後の日本の景気後退は、一般的にはデプレッションとは呼ばれていない。「失われた10年」と呼ばれるように長期間の不況だったが、経済成長率のマイナス幅は5%以下であり、デプレッションと呼ぶには軽かったというわけなのだ。
 イチローは2試合ほどヒットが出ないリセッションに陥っても、すぐに調子を取り戻してデプレッションというスランプに陥ることはない。しかし、世界経済は今、リセッションを超えて、「百年に一度」といわれる危機に直面している。
 アメリカ第33代大統領のトルーマンがこんな言葉を残している。「あなたの隣人が失業したらリセッション、あなた自身が失業したらデプレッションだ」。その言葉が現実になる日が、刻々と近づいているのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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