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一語千金

投資銀行

[investment bank]
高級輸入車の専門ディーラー

玉手義朗(エコノミスト)

 都心の一等地にある、高級輸入車専門のディーラーに冷やかし半分で入ってみた。1000万円を超す高級車を眺めていると、上等なスーツに身を包んだ店員が声をかけてくる。深い専門知識と押し付けがましさをみじんも感じさせないセールストークはさすがだが、こちらには買うお金も、高性能の車を乗りこなす運転技術もなし。場違いな気がして、早々に退散してしまった。
 同じような敷居の高さを持っているのが「投資銀行」だ。金融機関は融資や投資などの形でお金を必要なところに送り届ける「お金の運送業」と考えることができる。一般の銀行(商業銀行)は、預金者という「乗客」を融資先という「駅」に運ぶ「鉄道」だ。安全確実だが、乗客は行き先を自由に選ぶことはできない「間接金融」を行っている。これに対して、「自動車」を提供しているのが投資銀行で、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなど、アメリカで発展した金融機関の一形態だ。
 投資銀行は、企業や投資家に、株式や債券、社債などの発行や購入、合併や買収などのM&A業務、さらには不動産の証券化など、様々な金融取引の仲介とアドバイスを行っている。こうした金融取引は、お金を運ぶ自動車であり、顧客はこれを利用して投資や資金調達を行う。顧客のニーズに合った最適の金融手段(自動車)を開発して提供し、手数料を得るというのが投資銀行のビジネスなのだ。
 こうした金融の形態は「直接金融」と呼ばれ、証券会社が担ってきた。投資銀行も基本的には証券会社といえるが、扱っているのは極めて高度な金融取引だ。一般の証券会社が個人や中小企業向けの「大衆車」を扱っているとすれば、投資銀行が扱うのは「超高級車」ばかり。スピードの出るスポーツカー、豪華なリムジン、大勢の人が乗れるバンなど、顧客のニーズにあった多種多様な自動車をそろえているのである。
 当然、顧客も大企業や巨額の資金を運用しているヘッジファンドなどが中心で、一般庶民は相手にしない。限られた人たちが乗る最先端で高度な金融技術という超高級輸入車だけを扱っているのが、投資銀行なのだ。
 ヘッジファンドを始めとした投資家や大企業は、投資銀行から提供された自動車に乗って金融市場を走り回り、莫大な利益をあげた。投資銀行も巨額の手数料収入を獲得、数億円というボーナスを手にする投資銀行マンが続出するようになる。デリバティブやサブプライムローンの証券化など革新的金融手法を編み出し続けた投資銀行は、伝統的な商業銀行をしのいで、金融界の頂点に君臨したのだった。
 投資銀行の成功を目の当たりにした商業銀行は、危機感を強めた。そして、「鉄道はもう古い」とばかり、自らも投資銀行のビジネスに参入を図る。シティグループが、大手投資銀行のソロモン・ブラザーズを買収したのも、そうしたねらいの現れだった。
 ところが、この投資銀行が2008年に始まった金融危機によって大打撃を受ける。投資銀行が提供していたサブプライムローンの証券化や、クレジットデリバティブといった金融取引が巨額の損失を計上したのだ。投資銀行が提供した超高級車が派手な事故を引き起こしたことで信用は完全に失墜、ビジネスの屋台骨が揺らいでいるのだ。投資銀行第5位のベア・スターンズは救済されたが、第4位のリーマン・ブラザーズは破綻、第3位のメリルリンチはバンク・オブ・アメリカという商業銀行に買収され、第2位のモルガン・スタンレーとトップのゴールドマン・サックスも、投資銀行の看板を下ろし、商業銀行への転換を進めている。
 ビジネスモデルが崩壊してしまった投資銀行。華やかだったショールームでは、事故を起こしてボロボロになった超高級車が無惨な姿をさらし、高級なスーツを着た店員たちが大量解雇されているのが現状なのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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