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一語千金

TPP(環太平洋経済連携協定)

[Trans-Pacific Partnership]
入らないと仲間外れ?

玉手義朗(エコノミスト)

「次男がノイローゼ気味で…」。アメリカ赴任中の知人から、心配なメールが届いた。アメリカではホームパーティーを開いて隣人を招くなど、家族ぐるみの付き合いが活発だ。長男は英語も達者で、友達の家にもどんどん出かけて行く。ところが、次男は内向的な性格で、アメリカ人の友達が遊びに来るのも嫌がることから、家族全体が地域のコミュニティーに入りきれずにいるという。
 地域のコミュニティーに、どのように加わればよいのか…。「TPP」を巡る議論も同じだ。
 TPPは“Trans-Pacific Partnership”(環太平洋経済連携協定)の略称で、太平洋を囲む国々によって進められている貿易自由化の枠組みの一つだ。国を「家庭」と考えると、輸出が「訪問」、輸入が「来訪」となる。TPPは、太平洋を囲んだ国々が、互いの家を自由に往来できるような仕組みと考えることができる。
 TPPが目指すのは、関税の完全撤廃だ。現在、多くの国で、貿易をする際に関税がかけられている。日本からアメリカに遊びに行くと、関税という「入場料」を徴収されているのだ。これでは親密なご近所づきあいとは言えない。TPPは参加国が互いに関税を撤廃し、入場料を払うことなく、お互いの家を訪問することを目指している。
 TPPは当初、ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国によって発足した小さなコミュニティーだった。ところが、これにオーストラリアやマレーシア、さらにはアメリカも参加の表明をしたことから、巨大なコミュニティーへ発展しようとしている。
 こうした中、日本は難しい選択を迫られている。TPPに参加して関税が撤廃されれば、輸出がしやすくなる一方で、輸入品の価格が下がり、輸入量が増えることが予想される。輸出産業という「長男」は、入場料を気にせずに他の国に遊びに行けるし、日本には海外からの訪問者が増えてにぎやかになる。
 家族ぐるみの付き合いを可能にするTPPだが、これを恐れている「次男」がいる。農産物をはじめとした国際競争力の弱い産業だ。コメの場合、日本は700%を超える極めて高い関税を課している。競争力の弱い国内農家を守るためで、高い関税を課すことで海外からの訪問者を「門前払い」しているのだ。もし関税がゼロになれば、低価格の輸入米に押されて、国内農家が消滅しかねない。TPPに参加すれば、引っ込み思案の次男は、海外からの訪問者によって、追い出されかねないのである。
 しかし、農業に配慮してTPPに参加しないと、輸出産業に影響が出る。日本がTPPに参加しなければ、輸出品には引き続き関税が課せられる。一方、TPP参加国同士の関税はゼロだから、参加しなければ、輸出する際の価格競争力が関税の分だけ低下してしまう。引っ込み思案の弟をかばうために、兄の負担が増え、来訪者の数も減る。TPPに参加しなければ、日本が環太平洋地域で「仲間外れ」になる恐れもある。
 弟をかばって兄に負担を求め、孤立の道も辞さないのか。あるいは、弟を見捨て来訪者を受け入れるのか…。TPPに参加するか否かは、日本の将来を大きく左右することになるだろう。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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