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一語千金

マネタリーベース

[monetary base]
貨幣の「原材料」

玉手義朗(エコノミスト)

 自宅でポップコーン作りに挑戦したときのことだ。油を引いたフライパンに材料のコーンを入れ、コンロにかければ、みるみる膨らんで出来上がり…と思ったのだが、うまく膨らまない。火加減や油の量を調整してもダメで、イライラだけが膨らんだのだが、日本銀行も同じような思いをしているに違いない。貨幣の原材料である「マネタリーベース」が、思い通りに膨らんでくれないのだ。
   マネタリーベース(ベースマネー)は、その名の通り貨幣の「基礎」となるもので、中央銀行である日銀が供給している。市中に流通する「現金通貨」(紙幣+硬貨)と、民間銀行が日銀に保有している「日銀当座預金」の合計がマネタリーベースで、日々の経済活動で使われている貨幣の大本となっている。2012年12月のマネタリーベースの平均残高は、131兆9837億円(現金通貨88兆4270億円・日銀当座預金43兆5567億円)である。
 一方、実際に流通している貨幣量はこれよりはるかに大きくなっている。貨幣量全体を示すのがマネーサプライ(日銀は「マネーストック」と呼んでいる)で、マネーサプライの最も一般的な集計である「M3」(「現金通貨」に民間銀行に預けられた預金などを加えたもの)の同じ月の平均残高は1135兆8000億円と、マネタリーベースの8.6倍になっている。民間銀行というフライパンに入れられたマネタリーベースが、ポップコーンのように膨らんでいるのだ。
 マネタリーベースを膨らませるコンロに相当するのが銀行の「信用創造機能」。民間銀行の日銀当座預金に振り込まれたマネタリーベースは、企業や個人に融資され、これが他の銀行の預金となり、預金が増えたその銀行は、それを元手に新たな融資を実行…という循環を生む。このように、取引を通じて貨幣を「創造」することで、マネタリーベースを膨らませている。
 日銀は貨幣量を原材料であるマネタリーベースの増減でコントロールしている。これが金融政策で、貨幣量が増えすぎてインフレや景気過熱が心配されると、マネタリーベースを減らして金融引締めを実施、反対に貨幣量が不足して景気悪化やデフレが発生すると、マネタリーベースを増やして金融緩和を行う。
 マネタリーベースは「ハイパワードマネー」と呼ばれることもあるように、貨幣量を左右する強い力を持つが、これを膨らませるのは民間銀行の信用創造機能だ。したがって、日銀が大量のマネタリーベースを供給しても、信用創造機能が働かないと、貨幣量は十分に増加しない。
 デフレ経済が続く中、日銀は「量的緩和政策」などによって、マネタリーベースを拡大し続けてきた。しかし、民間銀行はその一部しか融資に回さず、供給されたマネタリーベースは日銀当座預金に滞留したまま。貨幣量は日銀が期待するほど増加せず、デフレも解消できずにきた。ポップコーンの材料は膨らむことなく、フライパンの中にたまり続けているのが現状なのだ。
 筆者がポップコーン作りに失敗したのは、原料となるコーンの種類を間違えたためだったが、マネタリーベースが膨らまない理由は判然としない。信用創造機能の低下に加えて、そもそも企業の資金需要が低いとの指摘もある。大胆な金融緩和を求める安倍政権だが、日銀がマネタリーベースを増やすだけでは、デフレ解消は実現できないのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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