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一語千金

レントシーキング

[rent-seeking]
ルール変更を求める圧力

玉手義朗(エコノミスト)

「日本潰しの改正だ!」長野オリンピックで圧倒的な強さを見せた日本のスキージャンプ陣だが、スキー板の長さについてのルールが改正された途端、全く勝てなくなってしまった。強すぎる日本人に腹を立てた一部の競技関係者が国際スキー連盟に圧力をかけ、日本人に不利になるようにルール改正をさせたというのだ。事実ならフェアプレー精神に反する行為だが、経済活動では平然と行われている。「レントシーキング」である。
「レントを求める(=Seeking)」という意味のレントシーキングだが、レントとは何なのか?「レント(=Rent)」はイギリスの農園主が小作人から徴収していた地代のことで、これが転じて制度や規制などによって苦労せずに得られる利益、つまり「利権」という意味を持つようになった。この利権の争奪戦がレントシーキングであり、企業などが、政府や官庁などに働きかけを行い、自らの利益を増やすように法律や政策、税制などを変更させようとすることなのだ。
 レントシーキングを多用しているのがアメリカ企業で、その一例を軽自動車の優遇廃止要求に見ることができる。日本では、軽自動車には税制の優遇措置がある上に、高速料金や保険も安いことから売り上げが拡大、国内の新車販売の3分の1以上が軽自動車となっているが、アメリカのメーカーは製造していない。日本での販売不振が続くアメリカの自動車メーカーは、軽自動車の存在が「不公平なルール」であるとして、日本政府に優遇廃止を迫っているのだ。日本人がジャンプ競技で強いのは、ルールが日本人に有利になっているからであり、変更すべきだというのに等しい。
 アメリカはコメを始めとした農産物に課せられた高い関税の引き下げも要求している。これもレントシーキングだが、実は高い関税を生み出したのもレントシーキングで、日本の生産者を低価格の輸入品から守るために、農業団体が政治家に働きかけて実現させたものだった。高い関税は日本の生産者を守り、海外の生産者を不利にする不公平なルール。アメリカは、すでに保護されている日本の農家の利権を解消させようと、レントシーキングに奔走しているというわけだ。
 利権を奪い合うレントシーキングは無駄な規制を生み、自由な競争を阻害することから、経済効率の低下と消費者の不利益をもたらす。アメリカの企業経営者の巨額の収入を「レントシーキングによる富の収奪」と指摘したのは、2001年にノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ。「民間企業が政府と結びつき公共サービスの仕組みを変え、市場のルールを変え、市場の公平な競争をうまく機能させないようにした結果だ」と、厳しく批判している。自分に有利になるようにルールを変えさせることで、苦労することなく巨額の報酬を得ているというのだ。
 身勝手なルール変更によって、選手の実力や鍛錬が勝負に反映されなくなったら、スポーツのだいご味は失われてしまう。経済活動も同じであり、レントシーキングに明け暮れるのではなく、正々堂々と競争することこそが、経済発展の原動力となるのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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