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一語千金

ストレステスト

[stress test]
金融機関の「耐震診断」

玉手義朗(エコノミスト)

「来年は廃業しているかもしれません」。紅葉見物で毎年のように訪れているホテルをチェックアウトする際、顔なじみの支配人が不安な表情で話しかけてきた。法律の改正で震度7を想定した耐震診断の実施と報告が義務化され、合格すれば「適合マーク」が交付されることになった。耐震性が不足していた場合でも補強工事は強制されないが、「適合マーク」のないホテルが敬遠されるのは確実。「補強工事費用は捻出できないので、耐震診断が不合格なら、営業継続は事実上困難なのです」と、支配人は深いため息をつく。
 ホテルの命運を左右する耐震診断だが、金融機関でも同じことが行われている。「ストレステスト」だ。ストレステストは、政府や中央銀行などの監督当局が金融機関の経営や資産の状況を調査した上で、長期にわたる景気低迷や、為替相場や株式相場の暴落といった「ストレス」(負荷)がかかった場合でも、経営が維持できるかどうかをチェックするというもの。金融機関という建物の耐震性を調べ、経済危機という大地震に耐えられるかを検証するのがストレステストなのだ。
 ストレステストで最重要項目となるのが自己資本。自己資本は金融機関の資産の中で、株式を発行して集めた資本金を中心とした返済する必要のない資金のこと。株価の暴落などで損失が発生したり、景気悪化で融資が焦げ付いたりした場合に穴埋めをするのが自己資本であり、これが潤沢なら金融機関が破綻(はたん)する可能性も低下する。自己資本は金融機関という建物の「柱」であり、これが頑丈なら大地震にも耐えられることから、ストレステストで徹底的に調べられることになる。
 ストレステストを広める契機となったのが、2008年に発生したリーマン・ショックという「大地震」だった。激しい揺れに見舞われた結果、健全と思われていた金融機関が次々に倒壊し、金融システムが危機に瀕した。こうした事態の再発を防ぐために、欧米の金融当局はストレステストを定期的に実施、経営体力の脆弱(ぜいじゃく)な銀行を見つけ出して、早期に是正措置を求めることで、金融システムの強化を図っている。
 ストレステストに合格することは、金融機関にとって必須条件となる。信用力は金融機関の最も重要な要素で、どんなに高い金利が付与されても、経営が破綻してお金が戻ってこなければ意味がない。おいしい料理や立派な露天風呂があっても、地震が来たら倒壊するホテルには誰も泊まろうとしないように、金融機関にも「適合マーク」が必要不可欠なのだ。
 14年10月、欧州中央銀行はユーロ圏の民間銀行130行に対するストレステストの結果を公表、25行が不合格だったとした。不合格となった銀行では預金流出が始まったことから、大慌てで自己資本の増強策を発表するなど、対策に奔走している。
 一方、合格した銀行はひと安心だが、ストレステストは、あくまで「想定」に基づいた「予測」であり、「想定外」の金融危機が発生した場合に耐えられるかどうかは分からないのが実情だ。
 耐震診断の結果が不合格なら、あのホテルに二度と泊まることはないだろう。「ストレステスト」に合格したのかどうか…。ホテルからの連絡はまだない。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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