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一語千金

ゾンビ企業

[zombie company]
「生ける倒産企業」

玉手義朗(エコノミスト)

 マイケル・ジャクソンの大ヒット曲「スリラー」のプロモーションビデオでは、特殊メイクをしたたくさんのゾンビが華麗なダンスを披露している。「生ける屍」であるゾンビは、人間たちを死の世界へと引きずりこもうとしているのだが、経済にも同じような存在がうごめいている。ゾンビ企業だ。
 ゾンビ企業は実態としては経営破綻しているものの、政府や銀行などの支援によって存続している企業のこと。企業活動を支えているのは、血液に相当するお金で、経営が悪化してこれが足りなくなれば、企業は倒産という「死」に至る。しかし、様々な事情や思惑から、お金の援助である「輸血」を受けることで、生き永らえている企業がある。これがゾンビ企業で、「生ける屍」ならぬ、「生ける倒産企業」というわけなのだ。
 経営が行き詰まった企業が倒産し、淘汰(とうた)されるのは、自然なことだ。しかし、企業規模が大きい場合、倒産によって大量の失業者を生んだり、取引先の企業への連鎖倒産を引き起こしたりと、広範囲に悪影響を及ぼす恐れがある。「大きすぎて潰せない」(=too big to)として、銀行などが融資を続けたり、政府が税金から援助をしたりと、倒産を回避させるための輸血が行われる。また、特別な技術をもつなど唯一無二の企業の場合にも、延命策が打ち出されることがある。一方で、政治的な思惑から経営が維持されるケースもあるなど、様々な事情からゾンビ企業が生まれている。
 しかし、ゾンビ企業が増え続ければ、経済に深刻なダメージを与える。ゾンビ企業につぎこまれるお金は、本来は他の企業に融資されるものであったり、税金だったりするもので、健全な企業や無関係の国民にしわ寄せが来ることになる。また、ゾンビ企業向けの融資を継続することで銀行の不良債権が増大し、銀行自身がゾンビ化する恐れもある。これが現実化したのがバブル崩壊後の日本で、経営が悪化した一部の企業がゾンビ化、これに融資を続けた銀行もゾンビ化し、最後は共倒れとなって未曽有の経済危機を引き起こしたのだ。
 現在、大量のゾンビ企業が発生しているのが中国だ。経済減速が進む中、過剰な設備や人員を抱えて経営破綻寸前に追い込まれた企業が続出している。しかし、その中には国有企業も多く、政府や地元当局がメンツをかけて資金援助を続けているのが実情で、これがゾンビ企業を急増させている。
 こうした状況に危機感をもった中国政府は、巨大なゾンビ企業が潜んでいるとされる鉄鋼・石炭業界の業界再編を断行すると発表するなど、対策に乗り出している。しかし、ゾンビ企業を一気に淘汰すると大量の失業者が生まれ、社会不安につながる恐れもある。これが政権基盤を揺るがす事態に発展することもあるため、輸血という資金援助を思い切って断ち切ることは困難な状況なのだ。
「スリラー」のプロモーションビデオさながらに、多くのゾンビ企業が踊っている中国経済。対応を誤ると大きな混乱が発生し、中国のみならず世界経済全体に大きなダメージを与える恐れもある。無事に夜が明けて、ゾンビたちが去ってゆくのか、あるいは人間たちを死の世界に引きずりこんでしまうのか…。ゾンビ企業の動向から目が離せない。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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