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一語千金

貸出・預金動向

[principal figures of financial institutions]
お金の就職事情を示す指標

玉手義朗(エコノミスト)

 大学生の就職状況が回復しているという。「就職氷河期」などと呼ばれていた時代には、就職先が決まらずに留年したり、非正規の仕事に就いたりと、不本意な選択をした学生も少なくなかった。こうした状況は社会全体にとっても大きな損失だろう。ところが近年は、非正規雇用の割合が増えているという問題は見逃せないが、就職率自体は改善傾向にあり、一部で学生の奪い合いも起こっているという。
 一方で、厳しい状況が続いているのが「お金の就職」だ。民間銀行は、預金などで集めたお金を企業などに融資して利益を出している。お金という働き手を企業などの融資先に就職させようとしているのだが、思うように仕事が見つからないのだ。
 お金の就職状況を示すのが「貸出・預金動向」だ。日本銀行が毎月公表しているデータで、都市銀行や地方銀行、信用金庫などの貸出額(金融機関向けを除く)と預金額が記されている。
 2016年3月の貸出・預金動向によると、貸出額(銀行計・平均残高)は433兆3461億円で、前年の同じ月より2.0%増加した。一応、貸出は増えてはいるのだが、就職を希望しているお金の額は、もっと増えている。日銀が供給しているお金の量(マネタリーベース・同3月)は、量的・質的金融緩和策を反映して前年同月比28.5%の大幅な増加となった。量的・質的金融緩和策は、民間銀行にお金という「働き手」を大量に送り込み、これを融資先に就職させることで経済を活性化させ、デフレを克服しようとするもの。しかし、お金が3割近く増えているにもかかわらず、貸出は2%しか増えていないのが現状だ。
 お金の就職事情が苦しいことは、貸出・預金動向の預金額からも分かる。3月の預金額(実質預金+譲渡性預金の平均残高)は前年同期比+3.0%の640兆9213億円だった。このうち、貸出に回っているのが433兆円余りであり、およそ「3人に1人」が就職できずにいるわけだ。
 貸出に回されないお金の多くは、民間銀行が日銀に保有している日銀当座預金に預けられ滞留している。就職できない学生が留年しているようなものだが、日銀としてはお金に働いてもらわないと目的が達成できない。そこで打ち出したのがマイナス金利政策だった。
 マイナス金利政策は、日銀当座預金の一部の残高で、金利を徴収するというもの。就職できずにいるお金に対して、「働かないのなら罰金だ!」と、日銀当座預金から追い出そうとしているというわけだ。
 しかし、日銀に脅されても、貸出先(就職口)は簡単には見つからない。そこで、日銀当座預金を追い出されたお金が向かったのが国債だった。国債は金利という給料こそ安いが、安全・確実な仕事。ところが、就職希望のお金が殺到したことから、国債の金利までもマイナスになってしまう。日銀当座預金で留年しても、国債でアルバイトをしようとしてもお金を取られる。こんな異常事態がお金の就職戦線で発生しているのである。
 お金の就職状況を示す貸出・預金動向。マイナス金利政策の効果が出て、貸出額が急ピッチで増え始めれば、日本経済が本格的に改善する前触れとなる。日本経済の先行きを読むうえでも、その動向はチェックしておきたい。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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