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黄色い蝶に導かれて 2025年ガルシア=マルケスの土地を訪ねる旅 第1回 ボゴタ

野谷文昭( ラテンアメリカ文学研究者)

 

当時マルケスは、こんな住宅に住んでいた? 撮影:篠田有史

 生々しく感じられるのは、斃(たお)れる前のガイタンが演説している姿や暴動で亡くなった多くの人々の遺体のせいだろう。かつてキューバで見た革命関連の写真を思い出す。当時騒動の渦中にいたガルシア=マルケスもフィデル・カストロも、この光景を目撃したにちがいない。現場の前のビルに掲げられたプレートには、事件の起きた日付、彼の有名な演説の一部、詩人の書いた追悼詩などが余白もないほどぎっしり記されていて、事件の記憶を伝えている。
 すっかり暗くなってしまったが、ガルシア=マルケスが法律を学んだコロンビア国立大学ボゴタ校のキャンパスを訪ねることにした。すでに閉門しかかっているようだったが、中から学生らしき若者たちが出てくるので、思い切って入ってみた。門衛に咎められることもなく、奥へ進む。気になったのは、キャンパスの建物にグラフィティがびっしりと描かれていることだ。それを描くことは公認されていて、この大学の芸術専攻の学生たちが毎月描きかえているという。

 

コロンビア国立大学のキャンパス。法学部の前でラミレス先生と 撮影:篠田有史

 法学部のキャンパスにたどり着く。正面から見ると校舎は小ぶりで、煉瓦が使われているわけでもなく、法学部らしい重量感がない。入り口では、学生がライブペインティングよろしく、建物にステンシルの手法で人物の顔を転写している最中だった。その彼と少し話をすると、ボゴタから900km離れたガルシア=マルケスの生まれ故郷であるアラカタカまで自転車で行ったことがあるとのことだった。空気がだいぶ冷たくなってきたので、今日の取材はこれで終わることにする。構内で見つけた背の低い泰山木の樹に白い花が2輪、寄り添うようにひっそりと咲いていた。
 コロンビアの面積は日本の3倍。コーヒーが有名だが、バラやカーネーションなどの輸出も盛んだ。また国内には4000種類に及ぶ蝶がいて、世界の蝶の20%が生息しているという。国花でもある蘭の種類が多いことは知っていたが、そういえばここは「蝶の国」だとエルドラド空港に飾ってあったパネルに書かれていた。だが、美しい蝶の写真が人目を引くなかに、大阪万博のコロンビア館で入場者を導いたはずの黄色い蝶の写真はなかった。果たしてこの旅のどこかで黄色い蝶に出会えるのだろうか。

著者情報

ラテンアメリカ文学研究者

野谷文昭

のやふみあき

1948年、神奈川県生まれ。バルガス=リョサ『ケルト人の夢』(岩波書店)翻訳で、2022年の第59回日本翻訳文化賞を受賞。主な訳書に、ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』(新潮文庫)『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』(河出文庫)、マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』(集英社文庫)、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『七つの夜』(岩波文庫)など多数。著書に『ラテンにキスせよ』(自由國民社)、『越境するラテンアメリカ』(PARCO出版局)、『マジカル・ラテン・ミステリー・ツアー』(五柳書院)などがある。

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