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常識を疑え!

非正規雇用はなぜ減らないのか?

香山リカ(医師)

 総務省の労働力調査によると、全雇用者のうち、パート、アルバイト、派遣社員などの非正規雇用で働く人は2010年平均で約34.3%。比較可能な02年以降では過去最大となった。

 今国会では、派遣規制を強化する派遣法改正案の審議が予定されていることもあり、派遣社員は減っているのだが、パート、アルバイトの増加がそれを上回っている形だ。

 もちろん、いちばんの理由は雇用側の“採用控え”だ。景気はやや上向きとは言われるが、まだ先に何が待っているかわからない。そういう中で、労働力が必要な場合でも、なかなか正規雇用のワクを増やそうとせずに、パートでまかなおうとする企業が少なくない。

 しかし、働く側にはまったく問題がないかと言えば、そうではないようにも思うことがある。大学で学生と話していると、ときどきこんなことを感じる。昨今の就職難で就職活動がなかなかうまくいかないケースも多いのだが、早々に正規雇用の道をあきらめてしまう若者がいるのだ。彼らは、「就職活動でボロボロになったから、とりあえず休みたい」と言う。そして、いったん「とりあえず休んで」しまうと、そこから戦線復帰をするのはかなりむずかしくなる。そのうち卒業が近づき、「とりあえずパートで経験を積んで」「とりあえずいまのバイトを続けながらゆっくり探す」と、“とりあえず状態”が続いたまま、学生生活を終えてしまうケースが多い。

 先の労働力調査でも、一度、職を失うと次になかなか仕事につけず、失業が長引く傾向があることが明らかになっている。失業期間が1年以上の者が、前年から26万人も増加して121万人に上ったのだ。職を失った者の中には、一方的に解雇、倒産の憂き目にあった人もいるだろうが、先の学生たちのように「激務に疲れてとりあえず退職」と自らその道を選んだ人もいるはずだ。

 いまの日本社会の場合、一度、就職活動あるいは正社員としての労働のレールからはずれてしまうと、再びそこに戻るのは非常にむずかしくなる。バイトやアルバイトなどの非正規労働はキャリアとしてはカウントされないので、いざ「正社員を目指して」と活動を始めても、「履歴書にブランクがある」と書類選考だけではねられてしまうことが多い。

 望ましいのは、採用側が離職期間やアルバイト期間についてもよく話を聞き、そこでそれなりの経験やスキルが培われているのなら、それも考慮して選考する、ということだ。もしかすると「大学卒業して3年間は無業」という場合でも、彼はその間、海外体験を積んで語学力やサバイバル能力が抜群に高いかもしれない。とはいえ、ただでさえ“採用控え”の企業が、「非正規期間もキャリアとして認めましょう」といきなり門戸を広げるとは、とても思えない。

 だとすると、正社員を目指す学生、正社員でい続けたい社会人は、よほどの事情がない限りは、なるべくブランク期間を作らないように、たとえだましだましでもいいから、辛抱強く就職活動や仕事を続けることだ。「もうイヤ、休みたい」というときは、なるべくいまの活動や生活を大きく変えないまま、まず週末や有休を活用して、ゆっくり心とからだを休ませる。

「ジャンプするにはリスクを負え」といったメッセージもあふれるいま、「とにかくスッパリやめてみよう」と後先を考えずに仕事を手放してしまう若者が目立つ。「小さくまとまれ」「体調を崩しても激務に耐えよ」とは言わないが、やめてリセットすれば先が開けるわけでもない。その前にまず、現状維持でできることがあるのでは、とアドバイスしたくなることが、診察室でもよくあるのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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