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常識を疑え!

震災報道はなぜ問題なのか?

香山リカ(医師)

 日本を襲った未曾有の大惨事。災害の規模を考えれば当然とも言えるが、テレビ、新聞、そしてネットなど、マスコミや情報発信ツールは、震災発生時からほぼ1週間、この問題、一色に染まった。これから雑誌、書籍もそれに続くだろう。

 まだ連絡がつかない親族や知人の安否を確認したくて、テレビを見続けている人もいる。ある知人も、「避難所が映るたびに、この中にいるのでは、とつい探してしまう」と言っていた。

 しかし、直接、被災したり被災地に知人などがいたりするわけではないのに、「とにかく見なくては、情報を集めなくては」とテレビの前に座り続けていた人もいると思う。もう少し消極的に、「ほかの番組はすべて中止だったから見ざるをえなかった」という人もいるはずだ。

 その人たちは今後、ちょっとした注意が必要だ。それは、おびただしい量の映像や情報に触れ続けているうちに、自分でも気づかないまま、地震、津波、原発事故の疑似体験をしてしまっている危険性があるからだ。

 最近の精神医学的な研究では、とくに子どもの場合、テレビの映像だけからも深刻な心の傷、トラウマを受けることが知られている。中には、フラッシュバック、不眠、うつ症状、イライラ、無気力といった深刻なトラウマ後遺症であるPTSDが発症した例もある。とくにアメリカの同時多発テロの後は、多くのケースが報告された。

 今回は、発信された映像や情報の量は、これまでの災害やテロと比べものにならないくらい多い。とくに、被災者自身が携帯電話やホームビデオを使って撮影した生々しい映像が、テレビやネットの動画サイトを通じて“これでもか”というくらい、流されている。おそらく、子どもだけではなく、おとなも知らないあいだに疑似体験をし、トラウマを受けているのではないか。

 また、ツイッターは被災地と外とを結ぶ有効な情報ツールではあったが、「助けて」「食べ物がありません」といった悲痛なコメントを目にしながらも何もできない自分に、罪悪感や無力感を感じた人もいたはずだ。東京の病院にも、「被災者のことを思うと涙が止まらない」「自分が情けなくて苦しい」と訴える人が何人も訪れた。これは、トラウマとはまた違うが、困難にある人に共感しすぎて自分の心のエネルギーをすり減らしすぎる「共感疲労」という状態だ。

 このように、今回の震災では、直接の被災者ではない人たちの中にも、トラウマを受けたり、「共感疲労」の状態に陥ったりしている人が無数にいることが考えられる。この人たちも、ある意味で被災していると言えるだろう。

 被災していない人までが、心を病んでしまったり、燃えつき状態で立ち上がれなくなったりすることだけは、何としても避けなければならない。そのためには、まず、自分を映像や情報からいったん遠ざけることも必要だ。そして、それによって生じた時間で、きちんと食事をしたりお風呂に入ったり、と自分をケアするように心がける。居ても立ってもいられない、と寄付できる先を探して走り回ったり、まして生活用品などを買い占めしたりするのは、「不安解消行動」にしかすぎず、いっそう心の疲れを促進してしまう。

 直接、救援や医療活動などに携わってはいない人たちが、まずしなければならないこと。それは、“共倒れ”を避けることなのではないだろうか。そのためには自分を休ませ、基本的なケアを怠らないようにしなければならない。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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